【令和7年 PM論文 問1】A評価の思考法|「チーム育成」の解答例と構成テンプレートを徹底解説


「論文、何を書けば…」その悩み、この記事が解決します

情報処理技術者試験(PM区分)、その最後の壁として立ちはだかる論文試験。多くの受験者が、自身の経験をどう切り取り、どう論理的に再構成すれば合格ラインに達するのか、深い霧の中で立ち尽くしています。特に「チームの育成」といった人間的側面を問う問題は、答えが一つではないため、より一層、筆を惑わせるものです。

ご安心ください。この記事は、そんなあなたのための「コンパス」です。

この記事を最後まで読めば、あなたは単にA評価の解答例を知るだけではありません。その解答がなぜ高い評価を受けるのかという思考のプロセスそのものを、完全にインストールすることができます。

今回は、令和7年度 プロジェクトマネージャ試験 問1「システム開発プロジェクトにおけるチームの育成計画について」を題材に、架空でありながら最高にリアルなプロジェクトストーリーを通じて、合格論文の設計図を徹底的に分解していきます。さあ、一緒にA評価の頂きを目指しましょう。

A評価のPMは、問題文のどこに注目するのか?

まず、この問題の本質を捉えましょう。出題者は、あなたに単なる「チームビルディングの成功事例」を求めているのではありません。彼らが本当に見たいのは、以下の3つの能力です。

  1. 予見能力: プロジェクトが直面するであろう「人間的なリスク」を、いかに具体的に想定できるか。
  2. 構想能力: そのリスクを回避し、理想的なチーム状態(健全な状態)へと導くための「育成計画」を、どれだけ主体的に、そして工夫を凝らして立案できるか。
  3. 実行・修正能力: 計画がうまくいかなかった時に発生する「新たな問題」に対して、いかに冷静に分析し、的確な解決策を打てるか。

つまり、「想定→計画→実行→問題発生→解決」 という、プロジェクトマネジメントの縮図そのものを、チーム育成というテーマで描き切る力が試されているのです。

今回の解答例では、最も対立構造が明確で、PMとしての高度な判断を描きやすい 「M&Aに伴う組織文化の衝突」 をテーマに設定しました。この戦略によって、他の受験者との差別化を図り、あなたのマネジメント能力を最大限にアピールします。

問題文および設問

この記事構成は、今後のほかの問題にも適用されます。 問題の原本はIPAにてご確認ください。

https://www.ipa.go.jp/shiken/mondai-kaiotu/2025r07.html#aki_pm

問題文

問1 システム開発プロジェクトにおけるチームの育成計画について

システム開発プロジェクトでは、その目標を達成するために、メンバーの開発経験や技術スキルといった技術的側面とは別に、メンバーに対する動機付けやチームワークの醸成などの人間的側面に着目したチームの育成計画を作成する。

異なる慣習や価値観をもつメンバーによるチーム編成、プロジェクト開始直前の急なメンバー交代などの、人間的側面での背景や事象によって、メンバーやチームが次のような不健全な状態になると想定された場合、目標の達成が危ぶまれる。
 ・メンバーが相互に支援したり、協力したりする意思や姿勢が見られない。
 ・チーム内での議論がかみ合わず、チームとしての一体感が不足していると感じたり、士気が上がらなかったりするメンバーが多い。

このような状態になることを避けて、次のような健全な状態を目指すために、人間的側面に着目したチームの育成計画を作成して、実行する必要がある。
 ・メンバー間の協力によって問題解決や意思決定ができており、チーム内のコンフリクトも建設的に解消できている。
 ・メンバー間の信頼関係が構築され、チームの一体感や士気が保たれている。

そして、チームの育成計画を実行する過程で発生した問題に対して、適切な解決策を策定して実行することで、プロジェクトの目標を達成する。

あなたの経験と考えに基づいて、設問ア〜ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトの目標、目標の達成が危ぶまれると考えたメンバーやチームの想定された不健全な状態、その状態を引き起こすと考えた人間的側面での背景や事象について、400字以上800字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた不健全な状態になることを避けて、あなたが目指したメンバーやチームの健全な状態とその状態を目指した理由、人間的側面に着目して作成したチームの育成計画について、あなたが工夫したことを含めて、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた育成計画を実行した過程で発生した問題と解決策、及び育成計画の実行結果がプロジェクトの目標達成にどのように貢献したかについて、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

1.プロジェクト概要と想定されたチームの不健全な状態

1.1.プロジェクトの目標

私が担当したプロジェクトは、経営統合に伴う顧客管理システム(CRM)統合プロジェクトである。所属する大手金融A社が、新興フィンテックB社を買収した。このM&Aの成功は、両社の顧客基盤を融合しシナジーを早期に創出できるかに懸かっていた。その最重要施策として、新たなCRM基盤を6ヶ月という極めて短い期間で構築することが目標とされた。加えて、両社のCTOや事業部門トップからは、「M&Aの成功を内外に示すため、納期は絶対である」という極めて強いプレッシャーが存在した。この絶対的な納期遵守こそが、本プロジェクトの至上命題であった。

1.2.想定された不健全な状態とその背景

目標達成を危ぶませたのは、旧A社の「品質至上文化」と旧B社の「スピード重視文化」という、開発文化と価値観の根深い対立であった。この対立は、プロジェクト初期の設計レビュー会議で早くも露呈した。旧A社メンバーが網羅的なドキュメントを要求するのに対し、旧B社メンバーは「コードこそが正義だ」と反発し、議論は感情的な非難の応酬に終始した。これにより、基本設計の一部の承認が3週間も停滞し、プロジェクト計画に初期遅延を発生させた。この対立は、特に品質基準の考え方を巡ってプロジェクト終盤に再燃し、手戻りによる致命的な納期遅延を引き起こす最大のリスク要因だと私は予見した。このままでは、出身母体ごとの派閥が形成され、公式な会議での発言は減る一方で、非公式な場での不満が渦巻くようになる。結果、チームの一体感は完全に失われ、士気は著しく低下し、上位ステークホルダーの期待を裏切る結果に終わる、極めて不健全な状態に陥ることが強く想定されたのである。

(744字)

設問イ

2.健全な状態の定義と人間的側面に向けた育成計画

2.1.目指した健全な状態とその理由

私が目指した健全な状態は、チームが自律的に課題解決できる状態である。A案として旧A社のプロセスに統一することも考えたが、旧B社メンバーのモチベーション低下と、それに伴う生産性の著しい低下は避けられない。B案として文化の完全な融合を目指すことも検討したが、プロジェクトの最大の制約条件である6ヶ月という短納期を鑑みた時、価値観の根幹である組織文化の変革は非現実的かつハイリスクな目標であると判断した。無理な理想を追うことは、かえって現場の混乱を招き、プロジェクトを頓挫させる元凶となりかねない。

そこで私は、本プロジェクトにおける健全な状態を、「文化的な価値観の対立を、客観的な事実に基づくビジネス上の意思決定に転換できるチーム」と、より現実的に再定義した。これは、文化という変革に時間のかかる情緒的な側面には深入りせず、あくまでプロジェクト内の意思決定という具体的な行動面にフォーカスする戦略である。この状態に至れば、根深い対立を乗り越え、短期間で事業目標を達成できると考えたためである。

2.2.人間的側面に向けたチーム育成計画の工夫

この状態を実現するため、私は人間的側面に特化した育成計画を策定した。その中で特に工夫した点は、紛争要因を予防するための具体的な施策を組み込んだことである。

1)チーム憲章の共創と限界の認識

キックオフでチーム憲章を共創し、行動規範の合意形成を図った。具体的には、コミュニケーションルールやコンフリクト解決の基本姿勢などを明文化し、全員の署名を得た。しかし、これだけでは抽象的なレベルに留まると考え、最大の対立点である品質基準について、具体的な予防措置を講じた。

2)プロアクティブ品質基準合意形成

私はこの施策を「プロアクティブ品質基準合意形成」と名付けた。これは、紛争が必至であるテスト工程に入る前に、プロジェクト初期段階で両社のキーマンと事業部門を巻き込み、事業目標から逆算した定量的な品質目標の草案を作成するという、意図的に前倒しした合意形成プロセスである。その実行ステップとして、まず私が各社のキーマンと個別に面談し、彼らの本音や懸念を事前に把握した。次に、その情報を元にアジェンダを設計し、全員参加のワークショップを開催した。ワークショップでは、敢えて両社の成功事例を相互に発表させ、リスペクトの土壌を醸成する時間も設けた。この施策の実行には、各々の文化の正当性を主張するメンバーからの強い反発が予想されたが、私はその際、議論の焦点を「どちらの文化が正しいか」ではなく、「6ヶ月後の事業成功のために、我々が守るべき品質の最低ラインは何か」という一点に絞り込むことで、建設的な議論を維持する計画であった。品質の定義についても、バグ密度だけでなく、性能、保守性、セキュリティといった多角的な観点から指標を洗い出し、それぞれの指標について事業インパクトと実装コストを天秤にかける実践的な議論を促した。これにより、主観的な文化の対立を、早期にビジネス上の数値目標の議論へとシフトさせることを狙った。

(1,319字)

設問ウ

3.育成計画の実行とプロジェクト目標達成への貢献

3.1.実行中に発生した問題と解決策

計画通り「プロアクティブ品質基準合意形成」に着手したものの、草案作成のワークショップは旧B社からの根源的な反発に遭い、完全に暗礁に乗り上げた。私は即座のエスカレーションを避け、次善の策として、両社の技術リーダーのみによる少数での分科会を設置し、特定の機能領域に絞った品質基準のトライアル導入を提案した。しかし、ここでも「文化への介入である」という感情的な反発を崩せず、議論は2週間に渡り空転し、更なる遅延を生んだ。

自らのリーダーシップによる現場解決の限界を悟った私は、当初の計画に固執することが更なるリスクになると判断した。そこで、最終手段として両社のCTOを議論の場に直接引き入れ、問題を再定義した。その際、私は事前に両CTOに個別説明を行い、「このままでは納期遵守は不可能であり、M&Aの成功自体が危ぶまれる」という危機感を共有した上で、彼らがビジネス判断を下せるよう、複数の品質レベル案とそれに伴うリスク・コストの選択肢を提示した。技術的な対立点ではなく、「事業として、どのレベルの品質があれば6ヶ月後のサービスインにおいて顧客満足と収益目標を両立できるのか」という経営判断を促した。結果、両CTO間の合意として「バグ密度0.5件/KLOC以下」というトップダウンの決定が下され、チームはこの指標を受け入れる形で、対立を一旦解消した。

3.2.育成計画の実行結果と目標達成への貢献

トップダウンの決定は、特に旧B社メンバーに深刻な失望感を与え、チーム内に新たな亀裂を生むリスクを伴うものであった。私はこの状況を放置すれば、チームが崩壊しかねないと危惧した。そこで、決定事項を伝えるだけの全体会議の後、私は旧B社メンバーとの対話集会を別途開催した。その場で、私はまず自らの力不足を認め、ボトムアップでの解決を断念した経緯を率直に説明した。その上で、彼らの文化が持つスピード感の価値を改めて称賛し、決定された品質目標の枠内で、いかにその俊敏性を活かせるか、具体的なプロセス改善のアイデアを共に検討することを提案した。この対話を通じて、彼らの不満は「会社への貢献」という前向きな意欲へと変化していった。結果、チームは真の意味で再生し、不毛な文化論争から解放され、定められた品質目標の達成に集中できるようになった。最大のリスク要因を乗り越えたことで開発は加速し、6ヶ月という納期を遵守して完遂した。これは、単にシステムを構築しただけでなく、M&Aの成功を左右する経営目標の達成に貢献したのである。

(1,096字)

A評価の思考プロセス分解

この論文がなぜ高い評価を得られるのか、その構造を分解し、A評価を得るためのポイントを解説します。

  • 計画の失敗と、そこからのリカバリーA評価の論文は、必ずしも成功談である必要はありません。むしろ、この解答例のように、PMが立案した計画が一度ならず二度までも失敗する様子を正直に描き、そこからどう粘り強く次の手を打ったかを記述することで、PMとしての現実的な問題解決能力をアピールできます。
  • PM自身の限界の認識と、戦略的エスカレーション「自らのリーダーシップによる現場解決の限界を悟った」という記述は、PMが自身の能力を客観視し、問題を抱え込まずに上位の権限を持つステークホルダーを戦略的に活用できる、成熟したマネージャであることを示す重要なポイントです。
  • トップダウン決定後のチームケアと、育成の再定義厳しい決定が下された後のチームには、必ず感情的なしこりが残ります。この解答例では、その負の側面から目を逸らさず、特に対象となったメンバーへの丁寧な対話集会というフォローアップを描いています。これにより、チームの崩壊を防ぎ、再生へと導くプロセスを示すことができ、論文のテーマである「チーム育成」に対する深い洞察力をアピールできます。
  • 一貫した経営目標への貢献意識論文全体を通じて、PMの全ての判断が「6ヶ月での納期遵守」「M&Aの成功」という経営目標に繋がっています。自身の行動が、より上位の事業目標にどう貢献するのかを常に意識して記述することが、視座の高さを採点者に示す上で極めて有効です。

構成ワークシート

さあ、今度はあなたの番です!以下のワークシートを使って、ご自身の経験をA評価論文の骨格へと変換してみましょう。空欄を埋めるだけで、あなたの論文の設計図が完成します。


【PM論文 構成ワークシート】

1.あなたのプロジェクトの状況は?(設問ア)

  • プロジェクトの目標と制約: (例:〇〇システムの刷新、納期Xヶ月)
  • チームの対立軸: (例:ベテラン vs 若手、品質 vs スピード)
  • 上位層からのプレッシャー: (例:経営層から『絶対に納期を死守しろ』という命令があった)
  • その結果、起きた具体的な問題: (例:〇〇の決定がX週間遅延した)

2.あなたの計画は?(設問イ)

  • あなたが「やらない」と決めたこと: (例:「文化融合」は諦める、「全員の合意」は目指さない)
  • その代わり、現実的に目指したゴール: (例:「意思決定のルール」を定める、「客観的な指標」を導入する)
  • そのための、あなたならではの「先手」: (例:「プロアクティブ〇〇」のように固有名詞化した、具体的な予防策)

3.何が起きて、どう対処したか?(設問ウ)

  • あなたの計画が、なぜうまくいかなかったか?: (例:現場の抵抗が想定より強く、頓挫した)
  • あなたの「プランB」: (すぐに諦めず、次に試した具体的な手は何か?)
  • あなたの「最終手段」: (それでもダメだった時、誰を、どう巻き込んだか?)
  • その決断がもたらした「新たな問題」と、そのケア: (例:トップダウン決定後のメンバーの不満に対し、どんなフォローをしたか?)

あなたの経験は、必ず合格論文になる

論文試験は、あなたの過去を問う試験ではありません。あなたの経験という名の「素材」を、PMとしての「視座」と「論理」で再構築し、未来の成功を約束できることを証明する試験です。

今回分解した思考プロセスと、提供したワークシートは、そのための強力な武器となります。あなたの頭の中にある貴重な経験を、自信をもって解答用紙に叩きつけてください。

あなたのこれまでの奮闘が、最高の形で評価されることを心から願っています。頑張ってください!

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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