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ITサービスマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。
問題文および設問
問題の原本はIPAにてご確認ください。
問題文
問2 クラウドサービスを活用したITサービスのサービスマネジメント活動について
組織が提供するITサービスの一部に、クラウドサービスプロバイダ(以下、CSPという)が提供するクラウドサービスを活用したITサービスが増加している。クラウドサービスを活用したITサービスのサービスマネジメント活動は、ITサービスマネージャの重要な業務である。
クラウドサービスの活用に当たっては、組織が提供するITサービスの目標に照らして、CSPが提供するサービスカタログのサービス内容や、提案依頼に対してCSPが提示するサービス内容を、関係部署とも連携を図り、十分に検証することが重要である。
クラウドサービスでは、使用されるリソースのモニタリングやリソースのコントロールをCSPが実施するので、オンプレミスで提供するサービスとは異なり、例えば、次のようなサービスマネジメントにおける問題に直面する。
・クラウドサービスの障害対応はCSPが行うので、CSPの作業の進捗状況が把握できず、利用者へのサービス回復時刻の見通しなどの連絡がタイムリーに行えない。
・顧客からのクラウドサービスに関連する改善要求及び苦情対応はCSPと調整することになるので、顧客へのフィードバック及び対応に時間を要する。
ITサービスマネージャは、このような問題の解決に向けて、組織の管理プロセスを見直すCSPと十分対応を協議するなどして、対応策を決定する必要がある。
あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。
設問ア
あなたが携わったITサービスの概要と、活用するクラウドサービスの概要を組織が提供するITサービスの目標に照らして、400字以上800字以内で述べよ。
設問イ
設問アで述べたクラウドサービスの活用において直面したサービスマネジメントにおける問題、解決に向けて実施した対応策、及び対応策を決定する上で工夫した点について、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
設問ウ
設問イで実施した対応策の評価、及び改善に向けて今後取り組むべきと考えていることについて、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
解答例
設問ア
1.ITサービス概要と活用するクラウドサービス
1.1.ITサービス概要
私が担当したITサービスは、国内市場シェア拡大を目指すEC事業者向けの24時間365日対応顧客サポートセンター(以下、本センター)である。オペレータ約30名体制で電話、チャット、メール対応を担う。本センターの組織目標は、顧客満足度(CSAT)前期比5ポイント向上(目標85%)、平均応答時間(ASA)20秒以内、一次解決率(FCR)80%達成である。これらは経営戦略「最高の顧客体験提供によるブランドロイヤルティ確立」に不可欠であった。従来のオンプレミスシステムは老朽化し、性能限界とBCP対策の脆弱性が目標達成の阻害要因となっていた。
1.2.活用するクラウドサービスの概要とITサービス目標との関連
上記課題解決のため、本センターは複数のクラウドサービス活用を決定した。基幹システムとしてSaaS型の顧客関係管理システム(以下、CRMシステム)を導入し、顧客情報の一元管理と応対履歴分析を行う。電話基盤にはCaaSを導入し、クラウドPBX機能や全通話録音を実現。オペレータ支援にはAI搭載のSaaS型ナレッジマネジメントシステム(以下、ナレッジシステム)を活用する。
これらの選定理由は、CRMシステムによる応答速度改善とデータ分析によるFCR向上、CaaSによる可用性確保とASA安定維持、ナレッジシステムによる回答時間短縮と品質均一化によるCSAT向上を期待したためである。CSP選定では機能に加え、BCP観点のデータセンター分散、セキュリティ認証(SOC2等)、障害時の日本語24時間サポート体制を重視した。情報システム部門等と連携し、提案書、デモ、SLAを比較検証した。特にSLAは、具体的な改善プロセスが明記されているかを重視した。これは、過去の契約経験から学んだ教訓である。
(800文字)
設問イ
2.クラウドサービス活用における問題と対応策
2.1.クラウドサービス活用で直面した問題
先に述べたSaaS型CRMシステムの活用において、外部連携用APIのレスポンス性能が月末月初に著しく不安定化した。通常1秒未満の応答が最大30秒以上遅延、またはタイムアウトした。CSPは当初「一時的高負荷」と説明したが、当方で情報システム部門と連携し詳細分析した結果、特定条件下でのCSP側リソース制御ロジック不具合を強く疑い、調査を要求した。これは標準監視ツールでは見抜けず、我々のプロアクティブな調査が不可欠だった。
この性能不安定化は、一括顧客登録処理やリアルタイム顧客属性変更に深刻な遅延を生じ、オペレータは不本意な対応を強いられた。結果、AHTは目標値を平均20秒超過、FCRも5ポイント低下し、CSAT目標と経営戦略が危ぶまれた。CSPからの障害情報が断片的で回復見通しも不透明なため、社内説明に苦慮し、情報透明性の重要性を痛感した。
2.2.問題解決に向けて実施した対応策
このAPI性能問題に対しITサービスマネージャとして、まず短期対応として情報システム部門とオペレーション部門から成る緊急対策チームを組成した。各種ログを収集・分析し、再現手順や発生条件を特定、CSPへのエビデンスとして提出した。並行し業務影響最小化のため、オペレーション部門と協議し運用回避策を策定。具体的には、当該API利用バッチ処理の深夜移行や、オペレータによるCRMへの手動入力(一件3分追加作業)の暫定手順を整備し協力を得た。
次に中長期の恒久対策としてCSPとの協議を推進した。当方収集の詳細エビデンス(ログ、再現動画、業務影響定量データ、仮説)を提示し、CSP日本支社技術責任者等と緊急対策会議を設定。当初難色を示されたが問題の深刻さと準備状況を理解させ、本社開発部門を巻き込む詳細調査に合意を得た。その上でSLA抵触可能性を指摘しつつ、根本原因特定と恒久対策、再発防止策(CSP側監視強化等)、情報開示プロセスの抜本的改善(通知時間、影響範囲、見込み時期提示等)を強く要求した。問題解決まで週次の進捗報告会をCSPのPM参加のもとで開催し進捗を注視した。
2.3.対応策での工夫
対応策決定と実行では以下の工夫をした。
1)客観的証拠に基づく論理的な交渉
「遅い」という定性的報告でなく、API応答時間、エラー頻度(99パーセンタイル値)、影響件数、機会損失試算等の数値データをグラフ等で提示した。これによりCSP側に問題の深刻度を認識させ、グローバルでの対応優先度を上げ、早期の本格調査とリソース投入を促すことを狙った。これは共有型クラウドで自社問題の重要性認識に不可欠だった。
2)社内外関係者との密な連携と期待値コントロール
初期から社内各部門や経営層へ状況・方針・リスクを適時共有した。その際クラウドサービスの特性(マルチテナント、改修サイクル、責任分界点等)を丁寧に説明し、即時完全解決の難しさへの理解を求めた。オペレータへは説明会で不安を聞き、会社として全力で問題解決にあたる姿勢を示し協力を仰いだ。限られた経営資源下での円滑な組織的活動には、優先事項の合意形成が不可欠だった。
3)実効性あるCSP連携の追求
SLAの形式的な遵守確認より、実質的な問題解決を最優先した。CSPとは普段から良好な関係を築き、障害時には懲罰的な要求ではなく、技術的な協力を中心に据えた。本センターの安定運用という共通利益をCSPに提示し、ビジネスパートナーとしての連携を促した。この現実的かつ協力的なアプローチが、結果的にCSPの迅速で質の高い対応を引き出し、早期解決に繋がった。
(1569文字)
設問ウ
3.対応策の評価と今後の改善点
3.1.実施した対応策の評価
先に述べたCRMシステムのAPIの性能問題への一連の対応策は、有効に機能し、深刻な業務影響を抑えサービスレベルを回復できたと評価する。具体的な成果は以下の通りである。
1)迅速な原因特定と問題解決
CSPとの交渉と共同調査により、約4週間で根本原因特定と修正パッチ適用が完了、APIは安定し業務遅延は解消された。
2)サービスレベル指標の回復
API平均応答時間は30秒超から1秒以内に改善。AHTは目標値に復帰し、FCRも目標値80%に回復。作業ミスや苦情もほぼ解消した。
3)CSPとの連携体制強化
CSPと技術情報を共有し品質向上を協議する月次定例会が新設され、潜在的な問題の早期発見・共同対処の基盤となった。
しかし課題も残った。恒久対策完了までの約4週間はオペレータ負荷増大等が避けられず、SLAに基づきCSPからの利用料金の一部返金も、ビジネス上の機会損失等を補填するには不十分だった。SLA指標は業務への複合影響は一部考慮されず、乖離が生じやすいと分析する。クラウド特有の困難下で主体的に行動し、致命的な事態の回避には成功したが、特定CSPに依存するリスクに対する管理が必須と認識した。
3.2.改善に向けた今後の取り組み
今回の経験を踏まえ、ITサービスの安定性と品質向上のため、以下の改善に取り組むべきと考える。
1)CSPとのエンゲージメントモデル深化
月次定例会に加え、CSP開発部門等との戦略的対話チャネル確立を目指す。自社要件をCSPのロードマップ策定に初期から反映させ、ニーズに合う改善・機能拡張を促す。これにより受動的関係から脱却し、サービス価値を共に創造する戦略的パートナーへと関係性を昇華させ、中長期的なサービス競争力強化を図る。能動的なサービス共創が狙いである。
2)SLAマネジメント高度化と契約交渉力強化
標準SLAでは補償額が実損害に見合わず、回復プロセスの実効性も担保されにくい。これを改善するため、特定機能の性能保証、障害時の情報開示の迅速性・透明性、RPO/RTO等を盛り込んだカスタムSLA締結を交渉する。ペナルティより迅速な復旧、原因究明、実効性ある再発防止策履行の契約担保を重視し、法務・調達部門と連携し専門知識と交渉ノウハウを蓄積する。
3)プロアクティブなリスク管理体制強化とBCPの改善
CSP起因の障害や事業継続リスク(買収等)も含めた多角的リスクシナリオを策定し、対応策や代替手段を事前検討・文書化する。主要クラウドサービスは定期的なBCP訓練で実効性を検証・改善し、経営戦略の継続性を最大限担保する。これにより障害影響を最小化し、予兆管理能力も向上させ、障害や変化に柔軟に対応できる体制確立を目指す。
(1198文字)
まとめ
自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。
参考図書
自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。
上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。
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