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ITサービスマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。
問題文および設問
問題文および設問は、下記にてご確認ください。
解答例
設問ア
1.ITサービスの概要とヒューマンエラーに起因した障害
1.1.ITサービスの概要
私が担当したITサービスは、全国の法人顧客向けにハードウェアのオンサイト保守を24時間365日体制で提供するものである。私はITサービスマネージャとして、サービス品質の全責任を負っていた。当時、組織はベテランFE(フィールドエンジニア)の退職によるスキル継承と、厳しいコスト削減要求という課題を抱えていた。
このような状況下で、ある金融系顧客のデータセンターにおける定期保守作業中、ヒューマンエラーにより稼働中のサーバをダウンさせ、顧客の基幹業務である販売管理システムを約2時間停止させる重大な障害を発生させてしまった。この障害は、金銭的な損失のみならず、長年かけて築き上げてきた顧客との信頼関係を大きく損なう事態となった。
1.2.ヒューマンエラーの内容
障害発生当日、作業を担当したのは経験15年のベテランFEであったが、当該機種の保守作業には1年以上のブランクがあった。ヒューマンエラーは、以下の二つが複合的に発生した。
1)作業対象機器の誤認
データセンターのラックに並ぶ同型サーバ群から、作業指示書記載の号機とは異なる、隣で稼働中のサーバを保守対象だと誤認した。
2)手順不遵守と思い込み
さらに、その誤認したサーバに対し、ホットスワップ非対応の電源ユニットを、稼働状態のまま引き抜いてしまった。これは類似機種の経験則による「思い込み」が原因であった。
障害報告を受け、私は顧客への報告と並行し、まず動揺している担当FEの精神的なケアを優先した。責任追及ではなく、事実関係を正確に把握し、共に再発防止を考える姿勢を伝えた。過去に責任追及型のヒアリングで分析が失敗した苦い経験から、担当者の心理的安全性の確保こそが、本質的な原因究明の最優先事項であると判断したためである。
(798文字)
設問イ
2.根本原因分析と再発防止策
2.1.根本原因分析
私は、ヒューマンエラーの分析において、担当者を一方的に問い詰める形式では本質的な原因にたどり着けないと考えた。そこで、手法としては「なぜなぜ分析」を使いつつ、個人を責めずに原因を究明する「非難しない振り返り」の手法を導入した。これは、エラーを個人の責任ではなく、システムやプロセスの問題として捉えるアプローチである。分析の場では、私自身も「マネージャとしてこの障害をなぜ防げなかったのか」という当事者として、対等な立場で対話するよう努めた。
この対話を通じて、私たちは「物理的安全確認プロセスの欠如」「手順書管理の形骸化」「スキル・経験管理の仕組みの欠如」という三つの根本原因を共に特定した。担当者も安心して状況を話すことができ、より深い分析に繋がった。具体的には、手順書の保管場所が個人の裁量に任され検索性が悪いこと、また機種ごとの保守経験やブランク期間を管理する仕組みがなく、アサインがリーダーの記憶に頼っていた実態も判明した。
2.2.再発防止策と中間評価
特定した原因に対し、まずコスト制約の中で即時実行可能な2つの短期的な対策に着手した。これらの対策は現場の作業工数を増加させるため、私は部門長と交渉し、優先度の低い内部監査資料の作成を1ヶ月延期する許可を得ることで、必要な工数を捻出した。
1)物理的安全確認プロセスの強化
作業手順書の冒頭に「対象機器の号機ラベル及びシリアル番号の指差し呼称と、作業指示書との照合」を、作業開始前の必須チェック項目として明記した。これは安全文化を醸成するための基礎として、その重要性を共有する狙いがあった。
2)スキルチェックの導入
作業指示書に最終作業日を記載させ、1年以上のブランクがある作業や初めての作業では熟練者による手順書のダブルチェックを義務付けた。このチェックでは、作業内容だけでなく、関連するリスクや過去の類似障害事例についても情報共有を行うことで、単なる確認作業に留まらない、実践的な教育の機会とすることも意図した。
施策開始から3ヶ月後、私は対策の浸透度と現場の納得感を得るため、全FEを対象とした匿名アンケートを実施した。これは、施策が形骸化していないかを確認し、現場の意見を次の改善に繋げる狙いがあった。「安全確認プロセスは明確になったか」という設問に対し、5段階評価で平均4.3点という高い評価を得た。一方で、「ダブルチェックが形式的になっている」という自由記述も見られ、形骸化防止という新たな課題も把握できた。
2.3.中長期的な視点での対策
短期的な管理強化だけでは現場が疲弊し、根本的な解決には至らないと私は考えた。そこで、より本質的な改善のため、以下の2つの施策に着手した。
1)ナレッジ共有のインセンティブ導入
失敗から学ぶ文化を醸成するため、ヒヤリハット情報や有効な作業ノウハウを共有したFEを月次で表彰する制度を試験的に導入した。これは、エラーを隠すのではなく、組織の資産として共有するポジティブな動機付けを目的としたものである。具体的には、ナレッジの閲覧数や貢献度を評価指標とし、月間MVPを選出する仕組みとした。
2)経営層への投資提案
私は、今回の障害による機会損失と賠償費用の合計約500万円に加え、過去3年間の類似エラー対応工数を人件費換算した約800万円を提示した。その上で、最新のナレッジベース・システムの導入により、これらの損失を初年度で70%削減可能であるという投資対効果(ROI)を示した企画書を作成した。提案では、コスト削減効果だけでなく、FEの教育期間短縮や顧客満足度向上といった定性的な効果も訴え、経営会議で提出し、品質向上のための戦略的投資の必要性を訴えた。
(1586文字)
設問ウ
3.ヒューマンエラーの傾向分析と明らかになった組織的課題
3.1.ヒューマンエラーの傾向分析
私は、組織全体の課題解明のため、過去3年間のヒューマンエラー起因の障害150件を分析対象とした。まず「パレート分析」を用い、エラーの約80%が「手順不遵守」と「確認不足・思い込み」の2要因に集中していることを特定した。次に、これらの主要因と、FEの「経験年数」及び「作業の3H属性(初めて、変更、久しぶり)」を軸にクロス集計分析を実施した。
その結果、ベテランは1年以上のブランクがある作業で「手順不遵守」のエラーを起こす比率が、他の層に比べ30%も高く、若手は突発的な事態での「判断ミス」に起因するエラーが若手のエラー全体の6割を占める傾向が判明した。また、機器の仕様変更時のエラーは経験年数を問わず発生していた。これらの傾向は、単なるプロセス不備以上の問題を示唆していると私は考えた。特に、若手の判断ミスについては、インシデントレポートに「判断に迷ったが、相談できなかった」との記述が多く見られ、相談しづらい環境が背景にある可能性が推測された。
3.2.分析によって明らかになった組織としての本質的な課題
これらの定量的な分析結果と、先の中間評価で実施したアンケートの自由記述から、私は当組織が抱える本質的な課題を以下の3点に集約した。
1)心理的安全性の高い組織風土の醸成
ヒューマンエラーを個人の責任として追及する風土が、報告文化そのものを停滞させていると分析した。これでは潜在的なリスクが可視化されず、組織的な学習が機能しない。失敗を組織の学習機会として捉え、誰もが安心して報告・相談できる、心理的安全性の高い文化をいかに醸成するかが、ベテランの慢心や若手の萎縮を防ぐ上での根本的な課題であった。
2)ナレッジ共有を促進する評価制度の構築
減点主義の評価制度が、挑戦や改善活動の意欲を削ぎ、組織の学習能力を停滞させていると結論付けた。個々のFEが持つ貴重なノウハウやヒヤリハット情報は、評価を恐れるあまり共有されず、属人化したまま失われていた。この悪循環を断ち切り、個人の経験を組織の資産へと転換させるための、新たな評価制度をいかに構築するかが、組織全体のサービス品質を底上げする上での重要な課題であった。
3)経営課題としてのサービス品質向上
サービス品質の低下は、顧客離反に繋がる重大な経営課題である。この課題に対し、現場改善だけでなく、経営的な視点での解決策が必要であると今回の取組みで認識した。そこで人事部と連携し、ナレッジ共有等を評価に組み込むことで、組織全体の品質意識と生産性を向上させる制度改革を提案し、まずはトライアルを実行する。
(1142文字)
まとめ
自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。
参考図書
自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。
上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。
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