ITサービスマネージャ午後Ⅱ論文の書き方が分からない人へ|一発で合格した実務経験者のサンプル解答【令和6年度:問2:CSIRT編】

こんな人におすすめ
  • 午後Ⅱ(小論文)でいつもつまづいている
  • 小論文のネタを探している
  • 合格者のアドバイスを受けたい

ITサービスマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題文および設問は、下記にてご確認ください。

解答例

設問ア

1.ITサービス概要とヒューマンエラーによる障害

1.1.ITサービスの概要

 私が担当したITサービスは、所属製造業の企業内CSIRTである。主な業務は全社的インシデント対応、脆弱性管理、セキュリティ監視、啓発活動である。体制は私を含む専任5名で、オンコールにより24時間365日対応していた。経営資源の制約として、高度スキル人材の偏在と負荷集中、教育予算不足によるチーム全体のスキル向上が課題だった。この状況が、後のヒューマンエラーの一因となったと私は考えている。

1.2.ヒューマンエラーに起因した障害

 海外生産拠点でのランサムウェア感染疑いインシデント(以下、本件インシデント)において、CSIRT担当者の初動対応でヒューマンエラーが発生した。具体的には、担当者がインシデントの深刻度を過小評価し、初期封じ込め指示(ネットワーク隔離、感染端末特定)が遅延した。結果、ランサムウェア感染が拠点広範囲に拡大し、数日間生産ラインが一部停止、生産計画遅延、納期遅延、多額の復旧コストが発生し事業に大きな損害を与えた。

1.3.ヒューマンエラーの内容

 具体的なエラーの内容は、インシデント報告を受けた担当者A(経験3年目)が、過去の軽微なマルウェア感染事例と類似すると早合点し、標準手順書のトリアージ項目(影響範囲確認、事業インパクト評価等)を一部省略したことである。直接原因は「思い込み」と「知識不足」である。担当者Aは類似経験から「今回も軽微」と思い込み、最新ランサムウェアの感染速度や事業影響知識の不足からリスクを過小評価した。加えて連日のアラート対応による「過労」も集中力低下を招き、誤判断の一因と考えられた。この経験は、個人のスキルや状態に左右されない判断プロセスの重要性を私に痛感させた。

(758文字)

設問イ

2.障害の根本原因と再発防止策

2.1.根本原因の分析

 前述のインシデントでのヒューマンエラー防止のため、根本原因分析を行った。表面事象に留まらず、背景の組織的要因まで深掘りする方針で臨んだ。

1)ヒューマンエラー発生状況の初期把握と課題認識
 事後検証で担当者Aへのヒアリングと記録確認から、トリアージでの手順省略と深刻度過小評価の事実を確認した。この時点で、個人だけでなく構造的問題を疑い、特にCSIRTの経営資源制約(スキル人材偏在、教育予算不足)がエラーを誘発したとの仮説を持った。この問いと仮説が、後の分析の方向性を定める上で重要だった。

2)重要な原因の特定(パレート分析の活用)
 エラーの潜在・傾向把握のため、過去1年のCSIRTインシデント対応記録及びヒヤリハット報告を分析した。エラー事象を5カテゴリに分類・集計し、パレート分析を用いた結果、「判断ミス」が65%、「手順逸脱」が20%を占め、最優先課題は「判断ミス」と特定した。私がパレート分析を選択したのは、多様な要因から影響・頻度の高い主要因をデータに基づき客観特定し、限られたリソースを効果的に集中させるためである。この分析で対策の焦点が明確になった。

3)根本原因の深掘り(なぜなぜ分析の活用)
 最重要問題である「判断ミス」の再発防止にあたっては、表面的な事象の裏側にある構造的な問題を明らかにする必要があると考え、なぜなぜ分析で深掘りした。直接原因である「思い込み」「知識不足」「過労」から「なぜ」を重ね、基準の曖昧さ、教育機会の不足、慢性的な高負荷、スキル偏在等の要因を特定した。最終的に、「スキル管理体制不備」「プロセス形骸化」「リソース管理・組織運営課題」という、組織的問題が根本原因と結論付けた。

2.2.実施した再発防止策

 根本原因分析で特定した課題に対し、ヒューマンエラーの再発防止策を策定し実行した。これらの取り組みは、短期的な問題解決と組織の持続的な能力向上に貢献すると考えた。

1)プロセス面の恒久的な対策
 「プロセスの不備」対応として、段階的改善を目指した。まず、既存手順書等をデザイン思考に基づき改訂した。判断基準を具体化・客観化し実践的な内容とすることで、対応の標準化とエラー抑制を図った。経験に左右されないプロセス確立が狙いだった。
 中長期的には、改善プロセスを反映した対応プラットフォーム導入、更にプロセスマイニングによるデータに基づく継続的改善サイクル確立を目指す。限られた資源でプロセス最適化を実現する、現実的戦略と判断した。

2)スキル管理面の対策
 「スキル管理体制の不備」対応として、年間教育・研修計画に基づき、基礎・専門研修や演習を定期実施する体制を整備し、外部研修参加等の費用補助制度も限定的に新設した。また、インシデント事例・知見を蓄積共有するナレッジベース構築と週次レビューを導入した。メンバー全体のスキル底上げ・均質化、特定個人への負荷集中緩和、及び組織的学習能力向上による持続的なチーム強化が狙いだった。これらは、専門性の高い組織構築のための投資であると経営層へ訴え、承認を得た。

3)組織風土面の対策
 過労やトラブルを報告しやすい雰囲気醸成のため、組織風土改革に着手した。週次ミーティングのヒヤリハット共有や、インシデントの事後検証では「学びと改善の機会」であることを強調し、個人非難をしないように注力した。心理的安全性を高め、オープンなコミュニケーションを活性化することで、トラブルの早期発見と健全な職場環境実現を図ることが狙いである。安心して働ける環境が全ての基盤と考える。

 なお暫定処置として、直接原因の知識不足等に対し、全担当者へ緊急研修(最新脅威、トリアージ重要性の周知)を迅速に実施、短期の再発防止に努めた。

(1595文字)

設問ウ

3.組織におけるヒューマンエラーの分析と課題

3.1.ヒューマンエラーの傾向分析

 前述の個別対応に加え、組織全体の傾向分析を行った。個別対策では見えにくい組織的弱点を特定し、体系的な再発防止策に繋げることが目的だった。

1)傾向分析の概要と手法の選択理由
 分析の目的は、CSIRTの過去のエラーパターン・頻度・状況を把握し、組織的な課題抽出と効果的な予防策立案に繋げることにあった。対象は過去3年のインシデント報告書(約150件)、ヒヤリハット(約60件)、および関連記録である。具体的な分析は、エラー分類基準(知識不足、不注意、誤判断等)を定義、事象をデータベース化し、エラー種類別の件数・割合、発生フェーズ、経験年数やインシデント種別毎の傾向を多角的に行った。この手法を選択した理由は、定量データに基づき客観的に傾向把握し、感覚論でない具体的課題抽出と複合的課題認識を重視したためである。

2)明らかになったエラーの傾向
 傾向分析の結果、CSIRTのヒューマンエラーに関して、いくつかの注目すべき傾向が明らかになった。第一に、業務経験3年未満の若手は「知識不足」や「ツール誤操作」が多く、特に新ツール導入直後が顕著だった。第二に、業務経験5年以上のベテランは「思い込み」や繁忙期の「手順不遵守」によるエラーが見られ、過去の成功体験への過信が示唆された。第三に、深夜早朝のオンコール対応では、限られた情報や支援体制、担当者の疲労が複合的に影響し、深刻度判断のエラー発生率が日中比で約1.5倍に増加していた。第四に、エラー種類別では「判断ミス」が全体の約4割、「連絡・連携ミス」が約3割を占めることが判明した。これらの多様な傾向を総合的に把握したことが、後の課題特定に繋がった。

3.2.組織としての課題

 傾向分析の結果、最大の組織的な課題は「組織的成熟度の低さの改善」と強く認識した。組織的成熟度が低いとヒューマンエラーを助長し、事業貢献を阻害すると判断した。具体的には、場当たり的な人材育成や、ナレッジ共有の欠如が個人の能力依存とエラー(若手の知識不足、ベテランの慢心)を生み、プロセスの形骸化と改善文化の欠如が判断・連絡ミスを多発させ、リソース配分等の組織的適応力不足が深夜帯エラーや高負荷を招いていた。
 この組織的成熟度の低さは、エラー再発リスクに加え、CSIRT本来の事業リスク低減や事業継続への貢献等の戦略的価値発揮を阻害し、経営戦略達成の足かせとなり得る。私は、この成熟度を克服し、CSIRTを真に信頼され事業貢献できる組織へ変革することが、最重要の責務と強く認識する。
 この認識に基づき、まず組織全体の意識改革を促すための啓発活動と、具体的な改善ロードマップの策定に着手し、メンバーと共にこの変革を力強く推進していく。

(1180文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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