【令和5年度:問2:データセンター編】ITサービスマネージャ午後Ⅱ論文対策|実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例

こんな人におすすめ
  • 合格レベルの論文がどんなものか、具体的な完成形を知りたい方
  • 自分の実務経験を「評価される論文」に仕上げる書き方のコツを知りたい方
  • 設問ア・イ・ウそれぞれの役割と、論理的な文章のつなげ方を学びたい方

ITサービスマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題の原本はIPAにてご確認ください。

問題文

問2 リリース及び展開の計画について

 ITサービスマネージャは、変更管理プロセスと連携しながら、リリース及び展開管理プロセスの活動を行う。
 リリースを安全に展開するため、リリース及び展開の計画(以下、展開計画という)を策定する。展開計画の策定に先立って、リスクを特定し、次のような検討を行う。
・リリースがサービスに与えるリスクを分析、評価し、リスクを最小限にとどめるための回避策又は軽減策を検討する。
・リリースがサービスに影響を与えないことを、展開前に本番環境に近い環境で試験し、試験では確認できないリスクを明確にした上で、その回避策又は軽減策を検討する。
・インシデント発生リスクを軽減させるため、展開後の稼働状態の監視方法を検討する。
 特定したリスクと検討した結果に基づき、リスクを回避又は軽減させるための方策をまとめ、リリースを安全に展開するための展開計画を策定する。例えば、
・展開時に発生する想定外の事態に備えて、影響の小さい機能や対象範囲から段階的に展開を行う。
・DevOpsの採用などによって、頻繁に展開を行う場合には、展開作業の自動化を行って作業時間の短縮や展開作業におけるミスの混入を防止する。
 また、展開実施後は、リスクを回避又は軽減するために採用した方策及び展開計画の有効性をレビューし、今後の展開に備えることが重要である。
 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

 あなたが携わったITサービスの概要と、リリースの内容、及び特定したリスクについて、800字以内で述べよ。

設問イ

 設問アで述べたリスクを回避又は軽減するために採用した方策、及び展開計画について、根拠と期待した効果を含めて、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

 展開実施後のレビュー結果を踏まえ、採用した方策及び展開計画の評価と課題について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

1.ITサービスの概要、リリースの内容及び特定したリスク

1.1.ITサービスの概要とリリースの内容

 私が担当したITサービスは、高可用性(99.995%)を保証し、当社売上の約4割を占める金融機関や大手EC事業者向けの基幹データセンターサービスである。本サービスは顧客のミッションクリティカルなシステムを預かるため、サービス停止は顧客の事業機会損失と当社のブランドイメージ毀損に直結する。
 今回実施したリリースは、データセンターの基幹ネットワークを構成するコアスイッチ群の更新である。これは、既存機器の保守サポート終了(EOL)への対応という防御的な側面に加え、年間5億円規模の事業創出を目指す次世代AI基盤サービスの提供に不可欠な通信帯域(100Gbps)を確保するという、戦略的投資としての目的があった。

1.2.特定した主要リスクとアセスメント

 計画策定に先立ち、過去のインシデント分析と専門家による議論を経てリスクを洗い出し、影響度と発生確率で評価した。特に優先対処すべき主要リスクは以下の三つである。

1)計画停止時間の大幅な超過

 違約金や機会損失で最大2千万円の影響額が見込まれ(影響:大)、過去の類似作業で30%の確率で遅延が発生しており(確率:中)、最優先で回避すべきリスクと判断した。

2)事前検証では確認できない不具合の発生

 顧客毎の多様な構成(標準外の経路制御プロトコル等)に起因し、一部顧客の業務を完全に停止させる(影響:大)。過去事例は無い(確率:小)ものの、その潜在的影響は無視できないリスクである。

3)新機器における障害検知の遅延

 新規導入機器の監視ノウハウ不足から原因特定が遅れ、サービス復旧が長期化する(影響:中)と評価した。過去事例からこの種の問題は頻発する(確率:高)と判断した。

(778文字)

設問イ

2.リスクを回避・軽減するための方策と展開計画

2.1.リスク軽減方策とその根拠

 前述の主要リスクに対し、以下の3つの方策を採用した。方策の採用にあたり、代替案のメリット・デメリットをリスクコストの観点から比較し、サービスの戦略的重要性から最適と判断できる根拠を明確にした。

1)リスクコスト評価に基づく展開方式の選択

 計画停止時間超過のリスク(影響額2千万円、発生確率30%)を基に試算したリスクコストは600万円に上った。このリスクに対し、全顧客を一度に移行させる「ビッグバン展開」も検討したが、この方式ではリスクコストを低減できない。対して、4週間にわたる「段階的展開」は、新旧環境の混在による追加コスト(約200万円)が発生するものの、影響範囲を4分の1に局所化し、リスクコストを150万円に抑制できる。この費用対効果と顧客の事業継続性を最優先する基本方針に合致するため、「段階的展開」に決定した。

2)重点的なテスト対象へのリソース集中

 リソース制約から全顧客環境のテストは不可能であるため、実効性を重視した。具体的にはCMDBから、影響を受けるルータ等の物理CIや顧客VPNサービス等の論理CIの情報を抽出し、通信量データでパレート分析を行った。これにより、リスクの8割が大手ECサイト等を含む上位2割の顧客に集中していると特定した。このデータに基づくアプローチで、限られたテストリソースを最もリスクの高い箇所に集中させ、検証品質を高めた。

3)障害の早期検知と迅速な復旧体制の構築

 障害検知の遅延リスクに対処するため、まず既知のエラーデータベース(KEDB)を活用した。具体的には「特定機能有効時のメモリリーク」といった障害事例や、「高負荷時のレスポンスタイム遅延」といった予兆の知見を分析し、それをCPU使用率の急上昇検知等の監視パラメータに反映させた。加えて、専門家から成る緊急時対応チームを設置し、技術的な問題だけでなく、営業やサポートへの情報提供までを一元管理することで、平均復旧時間(MTTR)の最小化を目指した。

2.2.具体的な展開計画と期待効果

 上記の方策を具現化するため、以下の展開計画を策定し、顧客及び関係事業者と合意形成を行った。

1)展開計画の具体的内容

 計画は準備(3か月)、実施(4週間)、安定化確認(1か月)の3フェーズで構成し、機器ベンダーや通信事業者との間で、各社の専門技術者の氏名と直接連絡先、及び深夜の待機体制までを明記した緊急連絡体制を確立した。顧客は影響度に基づき4グループに分け、リスクの小さい社内システムから最重要の金融系顧客へと順に展開した。各展開後には1週間の安定稼働監視期間を設けけたが、この期間は潜在的な不具合が過去のデータから72時間以内に顕在化するという分析に基づき、安全マージンを加えて設定した。問題が無いことを確認後に次へ進む承認を行う手順を採用した。

2)期待効果とKPI

 本計画により高品質なサービスを維持したまま更新を完了することを期待し、その効果を客観的に測定するため、以下の3点を成功基準(KPI)として設定した。

・計画遵守率100%
 全グループの展開作業が計画停止時間(1時間以内)を超過しないこと。

・重大インシデント発生件数0件
 本リリースに起因するSLA違反や重大な業務影響障害を発生させないこと。

・顧客満足度の維持
 リリース後の満足度調査で、5段階評価の移行前と同水準である4.0以上を維持すること。この4.0という値は、当社の他サービスにおける平均値及び業界ベンチマークを基に設定した、維持すべき最低ラインである。

 これらの多角的なKPI設定により、技術的成功だけでなく事業貢献の観点からもリリースの成否を評価できると考えた。

(1594文字)

設問ウ

3.方策と展開計画の評価と課題

3.1.展開後のレビューに基づく有効性評価

 リリース完了後、関係部署や機器ベンダーも交えた公式なリリース後レビュー(PIR)会議を実施し、設定したKPIやインシデント記録等の客観的データに基づき評価を行った。
 評価の結果、KPIは全て達成され本リリースは成功と判断した。成功要因は、以下の二点と判断した。

1)リスク分散方策の有効性

 「段階的展開」の採用がリスクの分散・局所化に貢献し、計画遵守率100%と重大インシデント0件を達成した。例えば、影響度の最も小さい社内システムを対象とした第1グループの展開で、発見された軽微な問題を後続グループで修正でき、リスクコストを低減するという方策の有効性が証明された。

2)計画的準備の有効性

 準備フェーズにおける、関係者との合意形成も成功要因であった。具体的には、経営層には「投資対効果」を、現場の関係部署には「手戻り削減による業務負荷軽減」を提示し、CMDB精度向上等の準備活動への協力を取り付けた。このように、立場の違うステークホルダーの関心事を正確に捉えて利害を調整したことが、「計画倒れ」のリスクを回避したと判断した。

3.2.レビューで明らかになった課題と組織的な改善策

 PIRでは、今後のための重要な反省点も明らかになり、これを正式な課題と定義し、当社の継続的サービス改善(CSI)のプロセスに乗せて、組織的な仕組みとして定着させる恒久対策を講じた。

1)ヒューマンエラー対策の仕組み化

 今回のリリースで、予備ケーブルの誤接続というヒューマンエラーが発生した。これは、深夜作業でのダブルチェックが機能しなかったことに起因するものだった。この課題を解決するため、データセンターの物理作業プロセスそのものを見直した。具体的には、人による目視確認に依存していた手順を廃止し、バーコードスキャナによる照合を標準プロセス化することにした。導入コストはかかるが、これによりプロセス全体の信頼性が向上し、将来の同種のリスクを根絶できると判断した。

2)コミュニケーション計画の標準化と共有

 顧客から「通知が専門的で影響をイメージしにくい」というフィードバックを受けた。これは、情報伝達が常にIT部門の視点で行われ、顧客視点が欠落していたという課題の現れだった。この課題に対して、「誰に、何を、いつ、どう伝えるか」を定義した「関係者別のコミュニケーション計画表」の標準テンプレートを準備し、今後のリリース計画でのこのテンプレートの利用を必須とすることを、全社技術部門長会議で合意した。

 これらの活動を通じ、今回の経験を組織全体の財産として活かしていくことが、ITサービスマネージャの重要な責務と考える。

(1160文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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