ITサービスマネージャ午後Ⅱ論文の書き方が分からない人へ|一発で合格した実務経験者のサンプル解答【令和5年度:問1:データセンター編】

こんな人におすすめ
  • 午後Ⅱ(小論文)でいつもつまづいている
  • 小論文のネタを探している
  • 合格者のアドバイスを受けたい

ITサービスマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題の原本はIPAにてご確認ください。

問題文

問1 サービスレベル管理におけるサービスレベルの合意について

 サービスレベルの維持を目的として行うサービスレベル管理において、顧客ニーズを満たすために必要なサービスレベルを定義、文書化及び合意することは、ITサービスマネージャの重要な業務である。SLAは、サービスの条件及びサービスレベル目標を記述する文書であり、顧客の視点でサービスレベル目標を定義することが望まれることから、サービス提供組織(以下、組織という)と顧客とのサービスレベルの合意に向けた取組が重要となる。
 顧客のサービス要求事項は、事業環境の変化、社会環境の変化及び情報技術の進展などによって多様化・複雑化・高度化している。例えば、QRコード決済サービスへの高い耐障害性、個人情報を扱うサービスへの高いセキュリティ性などがある。
 また、組織においては、AI、自動化技術などの新技術活用による品質向上・効率向上が期待される一方、設備面・体制面費用面などの制約が考えられる。組織と顧客とのサービスレベルの合意に向けた取組に当たっては、サービス提供に関わる内部供給者及び外部供給者(以下、サプライヤという)のサービスレベル目標又は契約との整合性が必要となり、サプライヤとの協議・調整も欠かせない。
 サービス開始後、サービスレベル目標を満たせない事態の発生又は兆候を認識した場合には、必要に応じてサービスの条件及びサービスレベル目標を再定義する。また、SLAの見直しに関わるサービスレベル管理の仕組みを確立することも重要である。
 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

 あなたが携わったITサービスの概要と、サービスレベルの合意に向けて、顧客との交渉で討議の対象となったサービスレベル項目、及び討議を要することとなった背景について、800字以内で述べよ。

設問イ

 設問アで述べたサービスレベル項目について、サービスレベルの合意に向けた取組、及びSLAの見直しに関わるサービスレベル管理の仕組みについて、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

 設問イで述べたサービスレベルの合意に向けた取組を、どのように評価しているか。また、サービスレベル管理における今後の課題は何か。600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

1.ITサービスの概要とサービスレベルの合意に関する背景

1.1.ITサービスの概要

 私が担当したITサービスは、金融業界の顧客を中心に提供する、ティア3相当のデータセンターサービスである。私は金融系顧客の専任サービスマネージャであり、顧客の事業計画とITサービスを連携させ、最適なサービスレベルを設計・提供することが職務であった。

1.2.討議の対象となったサービスレベル項目と背景

 特に重要な討議対象となったのは、QRコード決済サービスへの新規参入を計画するフィンテック企業、A社とのサービスレベル合意であった。討議の主要な論点は、当社の標準SLAで4時間と定義する目標復旧時間(RTO)を、A社の新サービス向けに1時間以内へ短縮することと、その実現に不可欠な重大インシデント管理プロセスを新たに定義することの2点であった。

 この高度な要求が提示された背景には、主に3つの事情があった。

1)顧客の事業リスクと法規制

 A社の新サービスは、金融情報システムセンター(FISC)の安全対策基準への準拠が必須であった。万一のサービス停止は、1時間あたり数千万円規模の機会損失と信用の失墜に直結するため、迅速な復旧能力が事業継続における必須要件であった。

2)技術的なギャップ

 当社の標準監視体制では、障害検知から原因切り分けまでに時間を要し、RTOを1時間に短縮することは困難であった。

3)投資対効果の課題

 RTO短縮には、高度な監視システム導入と専任エンジニア配置が必要で、年間約3,000万円の追加コストが見込まれた。このコストを誰がどう負担し、投資に見合う効果を得るか、という点について、双方の合意形成が不可欠な状況であった。

(734文字)

設問イ

2.サービスレベルの合意に向けた取組と管理の仕組み

2.1.サービスレベルの合意に向けた取組

 年間3,000万円の追加コストを伴う高度な要求に対し、顧客と当社の双方が納得できる形で合意形成を行うため、私はITILのフレームワークを指針とし、計画的に交渉を進めた。

1)課題の分析と交渉戦略の策定

 まず私は、A社の要求を分析し、この案件の本質的な課題は、障害の発生を前提とした上で、いかに迅速な事業復旧(サービス継続性)を実現するかという点にあると判断した。課題の本質は「重大インシデント発生時の対応プロセスの未整備」にあると特定し、RTOを1時間に短縮するには技術的な解決策(監視ツール導入)と運用的な解決策(プロセス整備)の両方が必要であると結論付けた。
 交渉戦略として、この2つの解決策をセットで提案し、顧客には投資対効果(ROI)を具体的に示すことを柱とした。具体的には、「年間3,000万円の投資は、サービス停止が一度でも発生すれば回収可能な額であり、事業継続リスクに対する合理的な保険である」というロジックで投資の正当性を訴求する方針を固めた。

2)具体的な合意形成プロセス

 上記戦略に基づき、私はA社との交渉を3つのフェーズに分けて進めた。第一回の交渉では、A社のコストへの懸念から議論は平行線を辿った。そこで第二回では、具体的な「重大インシデント管理プロセス案」を、各ステップの目標時間と役割分担を定義して提示した。さらに、提案する監視ツールのサプライヤにも同席を依頼し、技術的実現性を直接説明してもらったことで、提案の信頼性を高め、A社の態度を軟化させる転機となった。
 最終となる第三回の交渉では、最大の懸案であるコスト負担について、「当社が60%(1,800万円)、A社が40%(1,200万円)を負担する」というコストシェアリング案を提示した。この提案にあたり、私は事前に当社の経営層に対し、「これは他の金融系顧客にも横展開可能な『高付加価値サービス』のプロトタイプであり、将来の収益源を確立するための戦略的な先行投資である」と説明し、承認を得ていた。この背景をA社にも説明し、当社がパートナーとして新しいサービスモデルを創出する意思があることを示した結果、A社はこの提案に最終的に合意した。

2.2.SLAの見直しに関わるサービスレベル管理の仕組み

 今回の個別対応を一過性のものにせず、組織のナレッジとして形式知化するため、私はCSI(継続的サービス改善)の考え方に基づき、以下の恒久的な仕組みを構築した。

1)KPIによる定量的管理

 サービスの品質を定量的に評価し、継続的な改善を促すため、月次のサービスレビュー会を設置した。この会議では、新たにSLAに定義した2つの主要なKPIである「平均修復時間(MTTR)」と「重大インシデント発生件数」の達成状況をモニタリングする。MTTRは復旧能力を、発生件数は安定性を示す指標であり、この二つを両輪で管理することで、問題の早期発見と改善に繋げるプロセスを確立した。

2)インセンティブ条項によるサプライヤとの連携強化

 高品質なサービスはサプライヤとの強固な連携なくしては実現できない。そこで私は、サプライヤとの契約において、従来のペナルティ中心の考え方を見直し、新たな方針に転換することを試みた。具体的には、SLAにKPI達成度に応じたインセンティブ条項を新たに盛り込んだ。「月間のMTTR目標値を達成した場合、月額委託料金の1%をボーナスとして支払う」といった内容である。この仕組みの狙いは、サプライヤに目標達成への能動的な改善提案を促し、従来の委託先という立場から、品質向上を共有する真のパートナーへと関係性を発展させることにある。

(1574文字)

設問ウ

3.取組の評価と今後の課題

3.1.サービスレベルの合意に向けた取組の評価

 先に述べた取組は、顧客との合意形成に至り大きな成果を上げた一方で、いくつかの反省点も認識している。この評価を今後のサービス改善に繋げていく。

1)肯定的な評価

 成果として、主に以下の2点を肯定的に評価している。

・顧客の事業成功への貢献

 A社のQRコード決済サービスが無事ローンチし、FISCの監査基準もクリアできたことが最大の成果である。コストシェアリング案を通じて、A社からは事業リスクを共有する「パートナー」としての強い信頼を得ることができた。

・高付加価値サービスのモデルケース構築

 当社にとっても、価格競争から抜け出す新たな事業モデルの成功事例を構築できた。当社が投資した1,800万円に対し、初年度の投資対効果(ROI)は約20%向上する見込みであり、ビジネス上の成果は大きい。

2)反省点と改善すべき点

 一方で、プロセスを振り返ると、以下の2つの重大な反省点があった。

・初期見積もりの甘さとリスク分析の不足

 当初の追加コスト見積もり(2,000万円)が甘く、交渉途中で3,000万円に修正せざるを得ず、顧客の不信感を招きかねなかった。リスクバッファを考慮した精度の高い初期見積もりプロセスの確立が急務である。

・属人的な対応と社内調整の遅延

 前例のないコストシェアリング案の社内承認に想定以上の時間を要し、私の属人的な交渉でかろうじて乗り切ったのが実情であった。このような場当たり的な対応では、今後の事業拡大には対応できない。

3.2.サービスレベル管理における今後の課題

 前述の評価、特に2つの反省点に対応するため、私は以下の2点を具体的な課題として設定し、既に着手している。

1)高付加価値サービスの標準化とカタログ化

 「社内調整の遅延」という反省点に対応するため、今回A社向けに構築した「重大インシデント管理サービス」を、コストモデルや承認プロセス、SLAのひな形まで含めて標準化し、サービスカタログに追加する。これにより、個人の能力に頼ることなく、組織として一貫した品質とスピードで、他の金融系顧客へ迅速に横展開できる体制を整える。

2)新規サービス受け入れプロセスの確立

 「初期見積もりの甘さ」という反省点に対応するため、高度な要求を持つ新規サービスを受け入れる際の標準的なプロセスを確立する。このプロセスには、事業リスク分析、技術要件定義、実現可能性評価、そしてリスクバッファ(15%)を含む精度の高いコスト積算という4ステップを必須とする。これにより、見積もり精度を向上させ、サービス提供初期の信頼性を抜本的に改善することを目指す。

(1150文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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