- 合格レベルの論文がどんなものか、具体的な完成形を知りたい方
- 自分の実務経験を「評価される論文」に仕上げる書き方のコツを知りたい方
- 設問ア・イ・ウそれぞれの役割と、論理的な文章のつなげ方を学びたい方
プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。


問題文および設問
解答例
設問ア
1.プロジェクトの概要と阻害要因となった外部環境の変化
1.1.プロジェクトの概要とチームの特性
私が担当したプロジェクトは、全社で利用するオンプレミスのファイルサーバをクラウドストレージへ移行するもので、私はプロジェクトマネージャ(PM)を務めた。目的は、情報セキュリティ強化、サーバ維持管理コストの削減、多様な働き方の推進の三点であった。しかし、経営層からのコスト削減要求は厳しく、情報システム部の限られた人員で完遂する必要があり、予算と人的リソースに制約があった。チームはインフラ部門とアプリ部門の混成メンバーで構成され、インフラ部門のベテランA氏は、外部クラウドのセキュリティに強い懸念を抱いていた。当初のリスク管理計画では、「サードパーティ製品の品質問題」をリスクとして識別し、発生確率「中」、影響度「大」と評価していた。
1.2.阻害要因となった外部環境の変化と理由
このリスクが、想定を超える深刻な脆弱性として顕在化した。利用者への展開を目前に控えたタイミングに、移行先のクラウドベンダーから、PCのファイルを自動同期するクライアントに、不正な情報窃取に繋がる重大な脆弱性があり、修正パッチの提供に数週間を要すると発表された。これがプロジェクトの活動の阻害要因と考えた理由は、次の二点だった。
1)プロジェクトの正当性の低下
「情報セキュリティ強化」を最大の目的として掲げたにも関わらず、導入サービス自体に脆弱性があるという事実はプロジェクトの正当性を大きく低下させた。これにより、情報セキュリティ部門からプロジェクトの即時停止勧告を受けた。
2)プロジェクト目標達成への影響
サービスの信頼性が損なわれ、利用者の反発が強まれば円滑な全社展開は望めない。これにより、多様な働き方の推進や、コスト削減効果の実現も困難になると考えた。
(785文字)
設問イ
2.悪化したチームの状態とリーダーシップの実践
2.1.プロジェクトの悪化状態とメンバーの状況把握
情報セキュリティ部門からのプロジェクト停止勧告を受け、チームの士気は著しく低下した。
「セキュリティ強化が目的ではなかったのか」という経営層からの指摘も受け、定例会ではメンバーからの発言が一切なく、チーム内の自発的な情報交換も見られないなど、 活動が停滞していた。私はこの状況を打開するため、一人30分の個別面談を設定し、まず私がPMとしてリスクの見通しが甘かったことを認め、率直な意見を求めた。
その結果、特に二名の状況が悪化していると把握した。一人はベテランA氏である。彼の懸念が的中したことで、彼は私の計画に強い不信感を抱き、「だからクラウドは信用できないと言ったのだ」と、非協力的で意欲を喪失した状態にあった。もう一人はサービスの選定担当者であった若手のB氏である。彼は「私の調査不足が原因で皆に迷惑をかけた」と、脆弱性の見落としを自身の責任と思い込み、自信と意欲を失い、本来の能力を発揮できない状態にあった。
2.2.状況に応じたリーダーシップの選択と行動
私は、二名の状況が異なるため、それぞれに合わせた個別のアプローチが必要だと判断した。
1)A氏への参加型アプローチとフォロー
彼の高い能力と専門性を尊重し、意思決定に参画させることが意欲回復に繋がると考えた。当初、協力を拒む彼に対し、私は類似の業界インシデントデータを示し、彼の知見の必要性を説いた。そして、対策チームの主導権と、緊急対策費として確保した予算枠(50万円)内での執行権を委任すると伝え、役割を承諾された。任命後も会議で彼の判断を支持する姿勢を示し、彼が策定したリスク評価報告書を私がレビューし承認するプロセスを設けることで、彼のリーダーシップ発揮を後押しする支援を続けた。
2)B氏への指示的・支援的アプローチとフォロー
B氏には、まず心理的安全を確保し、次に具体的な指示により自信を回復させることを選択した。「これは個人の責任ではなく、組織で対応すべきリスクだ」と伝え、彼の心理的負担を軽減した。その上で、「まずA氏のチームで、この手順書を目次の案に沿って3日後までにドラフト作成してほしい」といった、具体的で達成可能な短期目標を与え、成功体験の獲得を支援した。彼が作成したドラフトには、「手順が網羅的で、利用者が陥りがちな疑問点もFAQとして先回りしており価値が高い」と具体的に伝え、彼の成果をチーム定例会で紹介することで、彼の貢献を公式に認め、自信の回復を後押しした。
2.3.リーダーシップを使い分けた理由
メンバーそれぞれの「能力」と「意欲」の状態が異なるため、画一的な対応は機能しないと判断した。高い能力を持つが意欲を失ったA氏には権限委譲による動機付けを、自信を失ったB氏には明確な指示と支援による成功体験の提供を、という個別アプローチが合理的と考えた。
他の選択肢として、PMである私が全ての指示を出すトップダウン型も検討したが、それではA氏の専門性を活かせず、B氏をさらに追い詰めるリスクがあった。また、彼らの上長への報告と介入依頼も考えたが、今回の問題は技術的な側面と人間関係の側面が複雑に絡み合っており、現場から離れた上長では最適な判断が難しいと考えた。
この状況において、最も重要なステークホルダは疲弊したチームメンバーであり、彼らの信頼と協力を得られなければ、いかなる計画も遂行不可能である。したがって、他の選択肢に比べて時間はかかるものの、PMである私が一人ひとりと向き合い、個別のアプローチを丁寧に実行することが、一見すると手間はかかるものの、結果として最も手戻りコストが低いと判断した。
(1570文字)
設問ウ
3.状態の改善とプロジェクトの成果評価
3.1.プロジェクトチームの改善状況
1)個々のメンバーの変化
A氏は対策リーダーとして能力を発揮し、複数の代替案についてメリット・デメリットを整理した評価報告書を作成するなど、建設的な提言を行うようになった。一方のB氏は、指示されたタスクを完遂して自信を取り戻し、その後は利用者からの想定問答集(FAQ)を「アクセス権限について」「オフラインでの利用について」など項目別に整理し、自律的に作成・提案するまでに成長した。彼が作成したFAQは、後の利用者説明会で質疑応答の時間を大幅に短縮する効果をもたらした。
2)チーム全体の状態改善
この二名の協業がチームに良い影響を与え、停滞していた活動が再開された。具体的には、「A氏が暫定策の技術的評価を行い、B氏がその結果を利用者向け手順書として文書化する」という、具体的な役割分担が確立され、これにより、誰が何に責任を持つかが明確になり、脆弱性発覚前の指示待ちの状態から脱却することができた。チームの協力体制が再構築されたことで、他のメンバーも自身の担当範囲におけるリスクの再点検に着手するなど、プロジェクト全体が自律的に動き始めた。定例会でも、課題に対する前向きな議論が行われるようになった。
3.2.プロジェクト成果の定量的・定性的評価
1)プロジェクト目標の達成状況
チームの立て直しと並行し、私はステークホルダとの調整、特に情報セキュリティ部門との折衝に最も時間をかけた。週次の報告会を設定し、対策の進捗と課題を共有し続けた結果、徐々に信頼関係が回復し、A氏が作成したリスク評価報告書とB氏の手順書を基に、正式なプロジェクト再開承認を獲得した。全従業員約5000名を対象とした利用者説明会では、暫定策への同意率95%(4750名)を達成し、最終的に、計画比3週間の遅延でリリースを完了した。これにより、目標であったサーバコスト年額30%(4000万円から2800万円へ、1200万円)の削減も達成した。
2)最終評価と組織への貢献
PMとして、当初識別したリスクへの対応計画の具体性が欠けていた点を真摯に反省している。しかし、リスク顕在化後の危機的状況において、メンバーの能力と意欲を見極め、状況に応じてリーダーシップを使い分けることで、チームを再生させ、プロジェクトを成功に導けた点は、PMとして適切な対応であったと評価している。今回の教訓を基に「クラウドサービス選定時のベンダー評価基準」を更新し、新たに「脆弱性発生時のSLA」や「情報公開ポリシー」といった具体的な項目を追加した。この内容をナレッジとして形式知化することで、組織全体のプロジェクト管理能力向上に貢献できたと考える。
(1155文字)
まとめ
自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。
参考図書
自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。
上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。




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