【令和6年度:問1:DX推進編】プロジェクトマネージャ午後Ⅱ論文対策|実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例

こんな人におすすめ
  • 合格レベルの論文がどんなものか、具体的な完成形を知りたい方
  • 自分の実務経験を「評価される論文」に仕上げる書き方のコツを知りたい方
  • 設問ア・イ・ウそれぞれの役割と、論理的な文章のつなげ方を学びたい方

プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題の原本はIPAにてご確認ください。

問題文

問1 予測型のシステム開発プロジェクトにおけるコストのマネジメントについて

 予測型のシステム開発プロジェクトでは、将来に対する予測に基づきプロジェクト計画を作成するが、システム開発に影響する事業改革の進め方が未定、新たに適用するデジタル技術の効果が不明などといった、正確な予測を妨げる要因(以下、不確かさという)が存在するプロジェクトもある。このようなプロジェクトでは、予測の精度を上げる活動(以下、予測活動という)を計画して、実行する必要がある。
 不確かさは、コストの見積りにも影響を与える。したがって、予算を含むステークホルダのコストに関する要求事項を確認した上で、不確かさがコストの見積りに与える影響についての認識をステークホルダと共有して、コストの見積りに関わる予測活動を計画し、実行することによって、コストをマネジメントする必要がある。
 計画段階では、予測活動の内容、コストの再見積りのタイミングを決める条件、予測活動における役割分担などのステークホルダとの協力の内容、及び再見積りしたコストと予算との差異への対応方針を、ステークホルダと合意する。
 実行段階では、ステークホルダと協力して予測活動を行う。そして、予測精度の向上を考慮した適切なタイミングで再見積りし再見積りしたコストと予算との差異に対して、対応方針に沿って予算の見直しやコスト削減などの対応策を作成し、ステークホルダに報告して承認を得る。

 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった予測型のシステム開発プロジェクトにおける、予算を含むステークホルダのコストに関する要求事項、不確かさ及び不確かさがコストの見積りに与える影響、影響についての認識をステークホルダと共有するために実施したことについて、800字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた不確かさに関して、計画段階でステークホルダと合意した、予測活動の内容、コストの再見積りのタイミングを決める条件、予測活動におけるステークホルダとの協力の内容、及び再見積りしたコストと予算との差異への対応方針について、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

実行段階での、予測精度の向上を考慮して実施した再見積りのタイミング、再見積りしたコストと予算との差異の内容、及びステークホルダに報告して承認を得た差異への対応策について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

1.プロジェクトにおけるコスト要求事項と不確かさ

1.1.プロジェクト概要とコスト要求事項

 私が担当したプロジェクトは、大手小売業のDX推進を目的とした店舗業務改革システムの開発である。私は本プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)を担った。目的はAI需要予測による業務最適化と、デジタルサイネージによる新たな接客の創出である。期間は18か月、予算は20億円で計画された。
 本プロジェクトでは、各ステークホルダから、時に相反する要求が提示された。経営層は投資対効果(ROI)を重視し2年以内の投資回収を求めた。現場部門は既存業務への影響を最小限に抑える段階的導入を要求した。さらに情報システム部門は、将来の保守や運用まで含めた総コスト(TCO)の抑制と、実績のある安定した技術基盤の採用を求めた。これが高いROIを望む経営層の意向と、技術選定における対立の要因となった。

1.2.不確かさがコスト見積りに与える影響とその共有

 コスト見積りの精度を低下させる主な不確かさとして三点を特定した。第一はAI需要予測モデルの精度である。事業目標達成に必要なデータ量等が不明確で、追加コストが見通せなかった。第二は、デジタルサイネージの接客効果の不透明さである。最適な設置台数が確定できず、コストが変動する可能性があった。第三は、業務改革の適用範囲が流動的であったことである。
 私はこれらの不確かさを管理・共有するため、公式な「リスク登録簿」を作成した。例えば、AI予測精度のリスクは「発生確率:高、影響:大」と評価し、キックオフ会議で提示した。このリスク登録簿と、コスト変動幅を示す3点見積りの結果を合わせて説明することで、「コストは固定値ではなく、管理すべきリスクである」という共通認識を醸成した。さらに、この登録簿は共有ポータルで常時閲覧可能とし、週次で更新することを合意した。

(798文字)

設問イ

2.不確かさに備えるための計画と合意形成

2.1.予測活動の内容と根拠のある再見積り条件

 不確かさを低減させるため、具体的な予測活動を計画し、その結果に基づく再見積りの条件をステークホルダと合意した。

1)不確かさ低減のための予測活動

 AI予測精度の不確かさに対しては、店舗特性を代表する3店舗でのPoCを2か月間実施した。この規模は、信頼できる予測結果を得るためのデータ量を確保しつつ、予測活動自体のコストを抑制する費用対効果を考慮し決定した。デジタルサイネージの効果には、2店舗で1か月間の実証実験を行った。これらの活動により、不確かさの解像度を上げた上でコスト評価を行う計画だった。

2)客観的指標に基づく再見積りの条件

 EVM指標を導入し、四半期評価時にCPIが0.9を下回るか、SPIが0.8を下回った場合に再見積りを実施すると定めた。これに加え、PoC完了時にAI精度が目標の80%を下回った場合にも再見積りを実施することで合意した。「80%」という閾値は、精度が低下した場合に発生する手作業での運用補正コストを、事業部門と共同で試算した結果に基づいている。精度がこの水準を下回ると、補正コストがシステム導入による業務削減効果を上回り、利益確保ができないことが判明したからである。この定量的根拠を示し、ステークホルダの納得を得た。

2.2.予測活動を推進するためのステークホルダとの協力

 予測活動を円滑に進めるため、各ステークホルダの役割を明確化した。具体的には、現場部門は業務要件の定義、情報システム部門は技術評価、経営企画部門はROI評価を担当した。
 計画当初、最も困難だったのは多忙な現場部門からの協力取り付けであった。現場責任者から「通常業務で手一杯であり、協力は困難だ」と強い難色が示されたため、責任者と個別の打合せの場を設け、彼らの懸念点を確認することにした。計画を示すだけでなく、各ステークホルダの制約に寄り添う姿勢が、信頼構築に不可欠だと考えたためである。打合せの結果を踏まえ、現場担当者がPoCに協力する工数を正式にプロジェクト工数として予算化し、その期間は他店から応援要員を派遣するリソース計画を提示した。この負担軽減策と、彼らの意見を反映したプロトタイプを早期に提示することを約束し、ようやく理解を得て協力体制を構築するに至った。

2.3.差異発生時の対応ルールと予備費の考え方

 コスト超過時に冷静かつ迅速に意思決定を行うため、対応ルールと予備費の考え方を事前に合意した。

1)コスト超過時の段階的な対応方針

 10%未満の超過はPM権限で機能の優先度見直し等の範囲で対処する。10%以上20%未満の場合は、事業部門長も参加するステアリングコミッティに判断を仰ぐ。20%を超える場合は、経営会議の議題に上げ、計画の抜本的見直しを含む経営判断を仰ぐこととした。

2)公式な変更管理プロセス

 上記方針を運用するため、公式な「変更管理委員会(CCB)」を設置し、コストに影響する全ての変更は「変更要求書」を用いて申請・評価・承認するプロセスを定義した。

3)二種類の予備費の考え方とルール

 予算計画には二種類の予備費を設定した。「特定リスク対応の予備費」として、リスク登録簿の期待値分析と過去の類似規模プロジェクトの実績を考慮し、当初予算の5%(1億円)を確保した。加えて、「不測の事態に備える予備費」としてさらに3%(0.6億円)を確保した。予備費を二段階に分けたのは、予測可能なリスクと不測の事態とを区別し、計画的なリスク対応と緊急時の柔軟な対応を両立させる狙いがあった。これらの使用ルールも明確にし、前者はCCB承認、後者はステアリングコミッティ承認とすることで、資金の健全性を保つガバナンスを整えた。

(1593文字)

設問ウ

3.再見積りの実3.実行段階における差異の管理と戦略的対応

3.1.計画に基づく再見積りの実施と差異の定量的分析

 計画段階で定めた条件に基づき、再見積りを実施した。

1)予測精度向上を考慮した再見積りのタイミング

 プロジェクト開始から4か月後のPoC完了時点で最初の再見積りを実施した。不確かさが最も低減されたこのタイミングが、最も見積精度が高いと判断したためである。

2)再見積りによって判明した差異の定量的分析

 再見積りの結果、合計で2.5億円の予算超過が見込まれた。その内訳は、次の通りである。
第一にAIモデル領域では、PoCの結果、当初考慮していなかった特売等の要因を反映させるには、想定より30%多い教師データが必要と判明し、その収集・教師データ化費用として約1.5億円のコスト増が見込まれた。第二にデジタルサイネージ領域では、約1億円の追加コストが算出された。店舗の明るい照明下で視認性を確保するには、高輝度パネルが必須と判明し、単価が1.5倍になったことが主な要因である。

3.2.公式プロセスに則った対応策の承認と今後の改善

 この2.5億円の予算超過に対し、事前に定めたプロセスに則って対応策を立案し承認を得た。

1)コスト削減策と追加予算の要求

 まずコスト削減策として、既存データを活用する案と、サイネージの設置エリアを最適化する案で1.5億円を圧縮した。残る1億円の超過については、追加予算を確保する方針を固め、「変更要求書」をCCBに提出し、技術的・計画的な妥当性の承認を得た。

2)経営会議での承認獲得と戦略的価値の訴求

 経営会議での最終承認を得るため、二つのシナリオを定量的に比較提示した。会議では、「なぜ初期の見積りでこのコスト増を予測できなかったのか」という厳しい指摘を受けた。これに対し私は、PoCで得られたデータと当初のWBSやリスク登録簿を提示し、発見された新たな要因が計画時点では予測不可能であったことを報告したうえで、シナリオを説明した。
 一つは年間約2億円の機会損失が見込まれる「投資しないシナリオ」。もう一つは計画通りのROIを目指す「投資するシナリオ」である。この比較に加え、本投資で構築した分析基盤が他商品にも横展開可能であるという戦略的価値を訴求することで承認を得た。

3)組織のプロセス改善へと繋げた教訓

 今回の経験から、初期の見積りプロセスに業務部門の知見を体系的に反映させる仕組みが不足していたという教訓を得た。これは組織の見積りプロセスの課題である。これを踏まえ、今回の事例を基に、計画フェーズに業務専門家のリスクレビューを必須とするよう、組織の標準プロセスを改定した。この改善の結果、後続の類似プロジェクトでは、計画段階での見積り精度が平均で15%向上するという定量的な効果も確認されている。

(1192文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

「この問題のこんなテーマの解答案を作ってほしい」などのご希望があれば、ぜひコメント欄でご要望いただけると嬉しいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

コメント

  1. たなか より:

    とても参考になる解答例をありがとうございます。勉強させていただいています。
    こちらの解答例にある最後の終わり方が不自然に感じたのですが、間違いなどではございませんでしょうか。

    場所:
    設問ウ
    3)組織のプロセス改善へと繋げた教訓
    平均で15%向上するという定量的な効果も確認されている。施と対応策

    ↑この部分です。

    • たなか様

      コメントいただき、誠にありがとうございます。
      いつもブログをご覧いただき、また「参考になる」とのお言葉、大変嬉しく、励みになります。
      そして、記事の誤りに関するご指摘、ありがとうございます。

      おっしゃる通り、該当箇所の文末に「施と対応策」という不要な語句が残っておりました。大変失礼いたしました。
      以前の編集時のテキストが残ってしまっていたようです。読みにくく、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。
      ご指摘を受け、ただちに該当箇所を削除・修正させていただきました。

      教えていただけたおかげで、より質の高い記事にすることができました。心より感謝申し上げます。
      今後とも、お気づきの点がございましたら、お気軽にご連絡いただけますと幸いです。

      これからもどうぞよろしくお願いいたします。

      ブログ管理者:おじさん2355