【令和6年度:問1:PMO編】プロジェクトマネージャ午後Ⅱ論文対策|実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例

こんな人におすすめ
  • 合格レベルの論文がどんなものか、具体的な完成形を知りたい方
  • 自分の実務経験を「評価される論文」に仕上げる書き方のコツを知りたい方
  • 設問ア・イ・ウそれぞれの役割と、論理的な文章のつなげ方を学びたい方

プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題文および設問は、下記にてご確認ください。

解答例

設問ア

1.プロジェクトの概要とコスト要求事項

1.1.プロジェクト概要とコスト見積りに影響を与えた不確かさ

 私が担当したプロジェクトは、製造業の全社基幹システム(ERP)の刷新である。私はプロジェクトマネージャ(PM)を支援するPMOの一員として参画した。本プロジェクトでは、ステークホルダ間のコスト要求が対立していた。経営層は総予算15億円の厳守を求め、事業部門は現行業務維持のための個別機能開発を要求し、コスト増大の要因となっていた。
 また、コスト見積りを妨げる不確かさが二つ存在した。

1)事業改革の進め方

 事業部ごとに仕様が異なる在庫管理プロセスの全社標準化が計画されたが、具体的な仕様が未定で、アドオン開発の工数見積りが困難であった。

2)新規適用技術の効果

 AIによる需要予測機能を導入予定だったが、自社データでの予測精度が未知数で、投資効果の妥当性評価を困難にしていた。

1.2.不確かさの影響に関するステークホルダとの認識共有

 これらの不確かさの影響について、PMはステークホルダ間の認識統一活動を主導した。私はPMOとしてPMを客観的データで支援した。

1)定量的影響の分析と提示

 PMの指示で過去の類似プロジェクト5件を分析した。「業務プロセスの合意形成が1か月遅延した場合の追加コストは、要件再定義の人件費、手戻り損失、契約変更費用を合わせ、平均約5,000万円に達する」との具体的な内訳を持つ分析レポートをPMに提出した。

2)認識共有のための段階的コミュニケーション

 当初、事業部門から抵抗も見られたが、PMは私が作成したレポートを基に、各部門の業務プロセスと過去事例との類似点を具体的に示し、リスクの現実性を論理的に説明した。その上で全ステークホルダ会議を招集し、予測活動の必要性について組織的な合意を形成した。

(787文字)

設問イ

2.不確かさ解消のための計画とステークホルダとの合意事項

 先に述べた不確かさを解消するため、PMは予測活動と関連ルールを計画し、ステークホルダとの合意形成を主導した。私はPMOとして、全社標準プロセスや成果物テンプレートの提供を通じ、PMの計画立案を支援した。

2.1.予測活動の内容

1)段階的プロセス標準化ワークショップ

 業務プロセスの不確かさに対し、PMは私が提示した標準プロセスを参考に3段階のワークショップを計画した。この標準プロセスは、過去の失敗事例に基づき各段階で明確な成果物を定義する枠組みであり、PMがこれを用いることで議論の発散を防ぎ、建設的な仕様決定に集中することを可能にした。①現状分析、②代替案評価、③実証テスト、という実証に基づく仕様決定を目指す計画である。

2)評価基準を設けたPoC

 新技術の不確かさに対し、PMは2か月間のPoCを計画した。その際、私は費用対効果分析を支援し、「予測精度80%以上で年間3,000万円の在庫削減効果が見込める」と試算した。この分析では、人件費削減効果(年間約500万円)も算出し、多角的な視点から投資の妥当性を評価する資料としてPMに提供した。PMはこのデータを基に事業部門と協議し、予測精度80%を成功基準として合意した。

2.2.コストの再見積りのタイミングを決める条件

 PMは見積り精度向上のため、二つのクオリティゲート通過時を再見積り条件とした。その際、私はPMOとして全社標準の運用手順書と客観的な通過判定基準のテンプレートを提供した。このテンプレートには、スコープ、コスト、品質の各項目に対する許容できる差異の範囲が具体的に定義されており、客観的根拠に基づかない判断の場となるリスクを低減させた。

1)ワークショップ完了後

 このタイミングを選定した理由として、PMは、アドオン開発スコープが確定することで、開発工数の見積り精度が当初の±30%から±20%の範囲まで向上する見通しが立つからである、と説明した。

2)PoC完了後

 この時点で、AI機能の実現方式が確定することにより、プロジェクト全体のコスト見積り精度が±15%まで向上すると説明し、合意を得た。

2.3.予測活動におけるステークホルダとの協力の内容

 PMはRACIチャートで役割と責任を明確化した。事業部門からデータ提供の作業負荷を理由とした協力への懸念(これがデータ提供遅延の潜在的リスクであった)が示された。これに対し、PMはPMOによるデータ抽出支援を代替案として提示した。これは、事業部門の作業負荷をゼロにし、懸念を根本から解消することで円滑なデータ提供を促すための支援策であり、私がPMOのツールで基幹DBからデータを自動抽出し匿名化処理を施して提供するものであった。

2.4.再見積りしたコストと予算との差異への対応方針

 PMはコスト超過時の対応方針の事前合意を提案した。スコープ削減案に事業部門は反発したが、私はPMOのナレッジベースから「事前合意がなく対策会議が紛糾し意思決定が2か月遅延した失敗事例」を報告した。このレポートでは、金銭的損失に加え、意思決定遅延が招いたキーパーソンのモチベーション低下といった二次的影響も具体的に示し、これが共通認識の醸成に決定的な役割を果たした。PMはこの客観的根拠で事前合意の重要性を説き、三段階の方針で合意した。

1)超過率5%未満の場合:PM裁量で予備費を充当する。
2)超過率5%以上20%未満の場合:PMが対策会議を招集し、スコープ見直しを検討する。
3)超過率20%以上の場合:経営層がプロジェクト継続を含め判断する。

(1538文字)

設問ウ

3.実行段階におけるコスト再見積りと差異への対応

 実行段階では、計画に則りコスト再見積りと差異への対応を実施した。私はPMOとして客観的な状況分析を行い、PMの的確な意思決定を支援した。

3.1.予測精度の向上を考慮して実施した再見積りのタイミングと差異の内容

 計画通り二つのゲート通過時にコスト再見積りを指示した。ワークショップ後のアドオン開発増で1億円、PoC後のAI精度向上対応で5,000万円、計1億5,000万円(10%)の超過が見込まれた。これは合意済みのゲート基準の許容逸脱度を超える値であった。私はPMの指示でEVM分析を行い、CPIが0.91であることを示すレポートと、現行ペースでの最終着地点コスト(EAC)の予測値をPMへ提出した。

3.2.再見積りしたコストと予算との差異への対応策

 超過率10%は合意方針に該当するため、PMが緊急対策会議を招集した。

1)スコープ削減に関する交渉と合意

 PMが一部機能の移行を提案すると、事業部門は「経理部門の業務負荷増大」を理由に明確な反対意見が出された。PMは私が算出した業務負荷増分(月間5人時)と削減効果(8,000万円)の比較データを示し、限定的な影響で大きな効果が得られると説得し合意を得た。

2)開発プロセスの効率化

 私はPMOとして管理するナレッジベースから、コスト削減に成功した過去の他プロジェクト事例を、「適用技術」「削減効果」「導入時の課題」の3点セットで整理し、PMに情報提供した。PMはその中からテスト自動化ツールの導入を決定した。開発チームから技術習熟リスクの懸念が示されたが、PMはパイロット適用で効果を検証する段階的アプローチを提案し合意を得た。これで3,000万円のコスト圧縮を見込んだ。

3.3.対応策に対するステークホルダからの承認取得プロセス

 対応策(計1億1,000万円削減)後も4,000万円の超過が残り、PMはこの不足分を予備費で充当する案を経営会議に上程した。CFOから「予測活動後の見積り精度が低い」との厳しい指摘があった。これに対しPMは予測活動の限界を認めつつ、私が計画時に報告した失敗事例を基に、意思決定遅延が招く金銭以外のリスク(モチベーション低下等)の大きさも訴え、迅速な判断を求めた。PMの論理的な説明が認められ、最終的に対応策は承認された。

3.4.本プロジェクトから得られた教訓

 本経験から二つの教訓を得た。第一に、リスクは定量的評価に加え、「意思決定遅延によるモチベーション低下」等の定性的影響も共有することが、困難な合意形成に有効であること。第二に、コスト超過への対応プロセスの事前合意が、混乱の最小化と迅速な解決に不可欠であった。私はこの教訓を形式知化し、今後の全社PM標準プロセスの改善に活かしていく。

(1189文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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