【令和6年度:問1:大規模データ移行編】プロジェクトマネージャ午後Ⅱ論文対策|実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例

こんな人におすすめ
  • 合格レベルの論文がどんなものか、具体的な完成形を知りたい方
  • 自分の実務経験を「評価される論文」に仕上げる書き方のコツを知りたい方
  • 設問ア・イ・ウそれぞれの役割と、論理的な文章のつなげ方を学びたい方

プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題文および設問は、下記にてご確認ください。

解答例

設問ア

1.プロジェクト概要とコストマネジメントの課題

1.1.プロジェクト概要とコストに関する要求事項

 私が担当したプロジェクトは、老朽化したオンプレミス販売管理システムをクラウド基盤へ刷新する際の、大規模データ移行プロジェクトである。私はプロジェクトマネージャ(PM)として参画した。主要ステークホルダである経営層等からは、IT投資最適化計画の一環として配分された予算8千万円と、年度内リリースという二つの厳しい制約を遵守することが要求された。

1.2.コスト見積りの不確かさとその影響

 計画初期のコスト見積りの精度は極めて低かった。3点見積りの結果、コストの振れ幅は予算8千万円に対し±40%(4,800万円~1億1,200万円)にも及び、その要因は以下の二つの重大な不確かさであった。

1)データ品質

 長年稼働する旧システムに蓄積されたダーティデータの全体像が不明であり、クレンジング対象レコード数の特定が困難だった。

2)ETLツール性能

 新規採用ETLツールが、当社の複雑なデータ構造に対して計画通りの性能を発揮できるか未知数で、性能不足時の追加開発コストが全く読めなかった。

1.3.影響についての認識共有と目標設定

 私は、この±40%という見積り精度では意思決定が不可能と判断し、キックオフ会議でこの事実と要因を全ステークホルダに提示した。そして、最優先課題は不確かさの解消による見積り精度の向上であると説明し、当面の目標として「コストの振れ幅を±10%以内に収束させる」ことを提案した。経営層からの活動コストに関する質問にも、それ自体が不確かであると説明し、まずはそのための「予測活動」に着手することについて、最終的な合意形成を図った。

(739文字)

設問イ

2.計画段階で合意した予測活動と対応ルール

2.1.予測活動の内容と精度の定量的評価手法

 コスト見積りの振れ幅を目標の±10%以内に収束させるため、私は計画段階でステークホルダと二つの予測活動、及びその効果を定量的に測定する評価手法について合意した。

1)予測活動の内容

 予測活動として、以下の二つの具体的な施策を計画した。

・データ品質の不確かさを解消するデータアセスメント

 「経験や勘」に頼る工数見積りを、客観的なタスクへ転換するため本活動を計画した。ツールでダーティデータの技術的パターン(例:「株式会社」と「(株)」の混在、電話番号のハイフン有無、住所の番地表記の違い、など)を洗い出し、業務部門へのヒアリングでビジネスインパクトを確認することで、対処すべき課題を特定する。

・ETLツール性能の不確かさを解消する技術検証(PoC)

 計画の実現性を担保するため、性能問題を早期に発見し対策することを狙った。その際、本番データから機密項目のみを不可逆変換で保護し、精度の高い検証が可能なテストデータとして利用する計画とした。

2)予測精度の定量的評価手法

 予測活動の効果を客観的に評価するため、3点見積りを用いたコスト範囲を段階的に縮小させる手法を合意した。具体的には、予測活動の各工程の前後で、不確かさの大きいWBS項目(クレンジング工数等)の悲観値・最頻値・楽観値を見直す。その際、単なる勘に頼らないよう、悲観値・楽観値は複数名の担当者から根拠と共にヒアリングし、最頻値は過去の類似プロジェクトのデータを参考にする、という工夫を計画に盛り込んだ。
 その上で、プロジェクト全体の「最悪ケースコスト(全WBSの悲観値の合計)」と「最良ケースコスト(全WBSの楽観値の合計)」を再計算し、この「コスト範囲の差額」が目標(予算の±10%である1,600万円)以内に収束していく過程をモニタリングすることとした。これは、専門的な統計ツールがなくても、プロジェクトの不確かさの減少を、全ステークホルダが直感的に理解できる効果的な手法だと判断した。

3)再見積りタイミングの「条件」の定義

 上記の評価手法に基づき、正式な再見積りのタイミングは、単なる時期ではなく、「予測活動の結果、算出したコスト範囲の差額が目標である1,600万円以内に収まった時点」と、予測精度の達成度そのものを条件として定義した。

2.2.ステークホルダとの協力及び差異への対応方針

 予測活動の成功には業務部門の協力が不可欠であったため、本活動が「将来の手戻りを防ぐ投資」である点を強調すると共に、彼らの持つ業務知識の重要性を伝え、当事者意識の醸成を図った。
 また、再見積りで予算超過が見込まれる場合に備え、超過レベルに応じた四段階の対応方針を事前合意した。これは、問題発生時に場当たり的な対応に陥ることを避け、迅速かつ合理的な意思決定を可能にするためである。

1)方針1:プロジェクト内部での吸収(予算超過率10%未満)

 PMの裁量で内部の管理手法の効率化や、リスクの低いテストの簡略化等によって吸収する。

2)方針2:スコープ見直しによるコスト削減(予算超過率10%以上20%未満)

 「コスト削減ワーキンググループ」を立ち上げ、移行対象データのスコープ削減案等を検討し、経営層に提案する。

3)方針3:機能・品質・納期のトレードオフ(予算超過率20%以上30%未満)

 非機能要件の緩和や納期延長を視野に入れ、限定的な追加予算を申請する。

4)方針4:事業目標の見直しによる抜本的対策(予算超過率30%以上)

 事業目標の見直し(例:移行対象の絞り込み)など、事業価値とのトレードオフを伴う抜本的な計画変更を提案することを最終手段と定義した。

(1591文字)

設問ウ

3.実行段階での再見積りと差異への対応策

3.1.再見積りのタイミングとコスト差異の内容

1)予測精度の段階的評価

 計画時に合意した評価手法に基づき、プロジェクト実行フェーズで、コスト見積りの振れ幅を段階的に評価した。まず、データアセスメント完了時点でコスト見積りを更新した。これは、最大の不確かさ要因であったクレンジング工数の見積り幅が大幅に縮小したためであり、結果、全体のコスト振れ幅は当初の±40%から±20%まで大きく改善した。しかし、目標の±10%には達していない状況だった。

2)最終再見積りタイミングの判断

 WBS項目毎の見積り幅を分析した結果、依然として大きな振れ幅を持つのは「ETLツール性能問題への対策工数」のみであった。このため、残存する振れ幅の主要因はPoCが完了していないことにあると分析し、この時点での最終再見積りは、まだ適切な時期ではないと判断した。

3)最終再見積りで確定したコスト差異

 PoC完了後、最後の不確かさであった対策工数の見積り幅も収束し、全体の振れ幅が目標の±5%に収まったことを確認して、正式な再見積りを実施した。その結果、見積りの振れ幅は目標内に収束したものの、最も確からしいコストは1億円と試算され、当初予算に対し25%(2,000万円)の超過となることが確定した。

3.2.ステークホルダに承認された差異への対応策

1)計画ルールに基づく対応策の提案と対立

 計画ルール(方針3)に基づき、スコープ削減や品質目標の一部変更を提案した。これに対し、業務部門長が「品質は100%を目指すべきだ。コスト増と納期延長で対応すべき」と強く反発した。一方、経営層は「納期延長は機会損失に繋がるため認められない」との立場で、合意形成が困難な状況になった。

2)定量的データを用いた合意形成

 合意形成を図るにあたって、品質目標の一部変更案が唯一の現実的な選択肢であると提言した。当初の要求事項であった「年度内リリース」の遵守が、ビジネス機会損失を回避する上で最優先されるべき制約事項と考えたからである。その上で、両者のトレードオフを定量的に比較した分析資料(納期延長コスト800万円に対し、品質目標変更による運用リスクコストは年間50万円)を提示し、議論の客観的な判断基盤を構築した。
 その結果、私の提言と客観的なデータに基づき、最終的に品質目標の一部変更が承認された。

3)プロジェクトからの教訓と組織への展開

 当初見積りが25%も超過した事実を重く受け止め、根本原因を分析した。主な要因は、計画初期のヒアリングで業務部門を十分に巻き込めなかった点にある。この教訓を基に、今後の類似プロジェクトでは、計画の初期段階から業務部門を巻き込んだデータ品質の共同評価プロセスを標準化し、組織の能力向上に繋げていく。

(1194文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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