【令和６年度：問２：老朽化システム再構築編】プロジェクトマネージャ午後Ⅱ論文対策｜実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例

プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題の原本はIPAにてご確認ください。

問題文

問２：システム開発プロジェクトにおけるリスクのマネジメントについて

　プロジェクトマネージャ（ＰＭ）は、プロジェクトの計画時に、プロジェクトの目標の達成に影響を与えるリスクへの対応を検討する。プロジェクトの実行中は、リスクへ適切に対応することによってプロジェクトの目標を達成することが求められる。
　プロジェクトチームの外部のステークホルダはＰＭの直接の指揮下にないので、外部のステークホルダに起因するプロジェクトの目標の達成にマイナスの影響がある問題が発生していたとしても、その発見や対応が遅れがちとなる。ＰＭはこのような事態を防ぐために、プロジェクトの計画時に、ステークホルダ分析の結果やＰＭとしての経験などから、外部のステークホルダに起因するプロジェクトの目標の達成にマイナスの影響を与える様々なリスクを特定する。続いて、これらのリスクの発生確率や影響度を推定するなど、リスクを評価してリスクへの対応の優先順位を決定し、リスクへの対応策とリスクが顕在化した時のコンティンジェンシ計画を策定する。
　プロジェクトを実行する際は、外部のステークホルダに起因するリスクへの対応策を実施するとともに、あらかじめ設定しておいたリスクの顕在化を判断するための指標に基づき状況を確認するなどの方法によってリスクを監視する。

　あなたの経験と考えに基づいて、設問ア～ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴と目標、外部のステークホルダに起因するプロジェクトの目標の達成にマイナスの影響を与えると計画時に特定した様々なリスク、及びこれらのリスクを特定した理由について、８００字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた様々なリスクについてどのように評価し、どのような対応策を策定したか。また、リスクをどのような方法で監視したか。８００字以上１，６００字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べたリスクへの対応策とリスクの監視の実施状況、及び今後の改善点について、６００字以上１，２００字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

１．プロジェクトの特徴と目標、及び特定したリスク

１．１．プロジェクト概要と目標

　私が担当したプロジェクトは、化学メーカーＡ社の基幹システム刷新であり、私はプロジェクトマネージャ（ＰＭ）を務めた。目標は、保守契約が切れる次年度末までの安定稼働と、承認された総予算６０百万円の遵守であった。これらは、Ａ社の事業継続と競争力維持のため、経営上の必須要件とされていた。

１．２．外部ステークホルダに起因するリスクと特定した理由

　プロジェクト計画時にステークホルダ分析と業界動向調査を行い、ＰＭが直接管理できない外部要因から、特に以下の３点を重要リスクとして特定した。

１）利用部門からの無秩序な要求仕様変更リスク

　現行システムへの強い不満から新システムへの期待が過剰な状態であり、要件定義完了後も複数部門から個別最適化の要求が多発すると予見した。部門間の利害も絡み調整は難航し、スコープ増大によって目標達成が困難になると判断した。この内部調整の失敗はプロジェクトを最も停滞させる。

２）現行システム保守ベンダーからの情報提供遅延リスク

　本プロジェクトはリプレースであり、データ移行等のため現行システム情報の把握が不可欠だった。しかし保守契約終了を控えたベンダーは協力意欲が低く、ドキュメント不備も多かった。情報提供が遅延すれば致命的な手戻りを招き、厳格な納期達成を危うくすると判断した。

３）法規制の変更に伴う開発手戻りリスク

　私が所属する化学業界では、化学物質管理等の法規制が頻繁に強化される。業界動向から、プロジェクト中に新たな報告義務が課される可能性が高いと予測した。この種の外部からの強制的な要求変更は、開発終盤に致命的な手戻りを発生させ、プロジェクト計画を破綻させる影響があると分析した。そのため、受動的に待つのではなく能動的に情報を追跡すべきリスクだと判断した。

（８００文字）

設問イ

２．リスクの評価と対応策、及び監視方法

２．１．リスク評価の全体方針と優先順位付け

　特定した３つのリスクに対し、客観的・定量的な評価基準を定義した。具体的には、発生確率と影響度をそれぞれ５段階で評価し、両者を掛け合わせたリスクスコア（最大２５）を算出した。影響度は納期・コストへのインパクトに基づき、「影響軽微（１）」から「プロジェクト目標の達成が困難（５）」までとした。特に影響度５は、追加費用が予算の３割を超過するような致命的なレベルと定義した。
　この基準による評価の結果、各リスクスコアは、①要求仕様変更リスクが２０（発生確率４、影響度５）、②情報提供遅延リスクが１５（発生確率３、影響度５）、③法規制変更リスクが１０（発生確率２、影響度５）となった。
　このスコアに基づき、私は具体的な対応戦略を決定した。スコア１５以上のリスク（①、②）には「予防」「軽減」の両面から対策を講じ、スコア１０のリスク（③）には「予防」「監視」を主軸にコンティンジェンシ計画を厚くすることで、限られたリソースを効率的に配分する方針を採った。これにより、優先順位は①、②、③と決定した。

２．２．要求仕様変更リスクへの対応

１）評価と対応策

　スコア２０の本リスクに対し、予防策としてプロトタイピングを活用し、利用部門との認識齟齬を防止した。軽減策として、利用部門長、ＩＴ部門、ＰＭＯで構成される変更管理委員会を設置し、全ての変更要求は影響分析を経た上で当委員会で審議する。その際、要求の必要性を「緊急度」と「事業貢献度」のマトリクスで客観的に評価するよう工夫した。コンティンジェンシ計画として、承認済変更に対応するため、詳細設計フェーズの工数に１０％のバッファを確保した。

２）監視方法

　監視指標を「変更要求の週次発生件数」とし、閾値は「週に３件を超過」に設定した。超過時はＰＭＯが直ちに原因を分析しＰＭへ報告するルールとした。これにより、問題の兆候を早期に捉え、迅速な対応を可能にすることを狙った。

２．３．情報提供遅延リスクへの対応

１）評価と対応策

　スコア１５の本リスクに対し、公式な合意形成を重視した。予防策として、現行ベンダーとＳＬＡを含む覚書を締結し、「問い合わせ後３営業日以内の一次回答」等、具体的なＫＰＩを明記し協力を義務化した。コンティンジェンシ計画として、ＫＰＩ未達時の段階的なエスカレーションプロセスを事前に文書で合意した。

２）監視方法

　監視指標は覚書で定めた「回答期限遵守率」、閾値は「月次遵守率８０％未満」とした。状況は「情報提供依頼リスト」で一元管理し、週次で進捗を確認した。閾値を下回った際は、即時臨時会議で原因と対策を協議する体制を整えた。

２．４．法規制変更リスクへの対応

１）評価と対応策

　スコア１０の本リスクに対し、予防と監視に注力した。予防策として、Ａ社の法務部担当者をアドバイザとし、月次で情報共有会を実施するなど常時モニタリング体制を構築した。また業界団体の会報等の定期確認をＷＢＳに組み込んだ。軽減策として、影響を受けやすい機能を独立性の高いモジュールとして設計し、将来の改修範囲を局所化するアーキテクチャ採用を指示した。コンティンジェンシ計画として、スコアの数値から顕在化時の影響は甚大と判断し、私は経営層に働きかけ、プロジェクト総予算の５％を本リスク対応専用の予備費として確保することについて、承認を得た。

２）監視方法

　監視指標を「関連法規制の改正案に関する公表の有無」とし、前述のモニタリング体制で監視した。改正の動きを察知した際、その確度を法務部と連携して評価し、「法令の成立」をトリガーにシステムへの影響分析を即座に開始するルールとした。これにより能動的なリスクコントロールを目指した。

（１５９２文字）

設問ウ

３．リスク対応の実施状況と今後の改善点

３．１．リスク対応策と監視の実施状況と評価

１）要求仕様変更リスクへの対応結果と評価

　変更管理委員会を計画通り運営し、提出された１８件の要求を全て影響分析と客観的評価に基づき審議した。結果、８件をスコープ内で承認、残る１０件は利用部門と合意して次期開発課題とした。無秩序なスコープ増大は抑制され、納期・予算目標の達成に大きく貢献できた。客観的指標に基づく議論が円滑な合意形成に繋がったと評価している。

２）情報提供遅延リスクへの対応結果と評価

　プロジェクト中盤、現行ベンダーからの仕様書提出が２週間遅延したが、私は週次の監視でこれを２日以内に検知し、直ちにエスカレーションを発動した。まず相手方ＰＭへ催促したが解決せず、次の段階である事業部長間の会議を設定した。会議の場で私は、本遅延がプロジェクト全体に与える金銭的損失額を具体的に提示し、相手方ＰＭへの配慮をしつつも断固たる姿勢で協力を要請した。この上位レベルでの介入が功を奏し、問題発生から１週間後には情報を受領、クリティカルパスへの影響を３日間の遅延に抑制できた。リスクは顕在化したが、計画的な監視と対応が損害を最小化したと評価している。

３）法規制変更リスクへの対応結果と評価

　仕様に直接影響する法規制の成立はなかった。しかしプロジェクト終盤、モニタリング体制下の法務部より関連法改正の動きがあるとの情報を得た。私はこれをトリガーと判断し直ちに影響分析を開始、この予備調査にコンティンジェンシ予算から３０万円を使用する承認を経営層から得た。影響は軽微と判明したが、これは問題発生を待たずに能動的に兆候を捉え、計画的に対応する予防的管理の有効性を示したと評価している。

３．２．今後の改善点

　今回のリスクマネジメントは有効であったが、より高度化するため以下の改善点を認識した。

１）ステークホルダとの合意形成プロセスの強化

　情報提供遅延の解決に工数を要した反省から、次回はＳＬＡに少額のペナルティ条項を追加するなど、より強い協力への動機付けを契約段階で行うことを検討する。これにより、問題の未然防止を一層強化したい。

２）変更管理における要求元への意識改革を促す仕組み

　要求数を抑制できなかった反省から、次回は各主要部門へ「変更対応枠」として工数で提示し、超過分は部門予算とする仕組みを検討する。これにより、要求元にコスト意識と優先順位付けを促し、要求の質を高めたい。

３）組織的なリスク情報共有の仕組み化

　法務部との連携が属人的であった反省から、この経験を形式知化するため、私はＰＭＯに「組織横断的なプロジェクトリスク情報共有プロセス」の標準化を提案した。個人の経験を組織の資産とし、会社全体のリスク対応能力向上に貢献することが最終的な目的である。

（１１９６文字）

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。