プロジェクトマネージャ午後Ⅱ論文対策|実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例【平成25年度:問3】

こんな人におすすめ
  • 午後Ⅱ(小論文)でいつもつまづいている
  • 小論文のネタを探している
  • 合格者のアドバイスを受けたい

プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

具体的な問題はIPAにてご確認ください。

問題文

問3 システム開発プロジェクトにおける工程の完了評価について

 プロジェクトマネージャ(PM)には、プロジェクトの品質、予算、納期の目標を達成するために、プロジェクトの状況を継続的に評価し、把握した問題について対策を検討し、実施することが求められる。
 特に、各工程の完了に先立って、作業の実績、成果物の品質などの項目について、その工程の完了条件に基づいて評価する。また、要員の能力や調達状況などの項目について、次工程の開始条件に基づいて評価する。評価時に把握されるプロジェクト遂行上の問題としては、例えば、設計工程では、次のようなものがある。
・工程の成果物の承認プロセスが一部未完了
・次工程の開発技術者が、計画上の人員に対して未充足
 PMはこのような問題を把握して、次工程にどのような影響を与えるかを分析し対応策を検討する。問題によっては、プロジェクトの納期は変えずにスケジュールの調整を行うなどの対応策が必要になる場合もある。そして、必要な関係者にその工程の完了及び次工程の開始の承認を得る。
 また、類似の問題が発生しないように問題の背景や原因を把握して、再発防止策を立案することも重要である。

 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトのプロジェクトとしての特徴と、完了評価を行った工程の一つについて、その概要、その工程の完了条件と次工程の開始条件を、800字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた工程の完了評価の結果はどのようなものであったか。その際、把握した問題と次工程への影響、検討した対応策について、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた問題の背景や原因、再発防止策とその評価、及び残された問題について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

1.プロジェクト概要と完了評価を行った工程

1.1.プロジェクト概要

 私がPMとして参画したプロジェクトは、年商約1000億円規模の大手小売業A社向け顧客データ分析基盤の新規構築である。全社システムに散在する顧客データを統合・分析し、マーケティング戦略を支援することが目的だった。予算8千万円、ピーク時15名の体制だった。
 プロジェクトには、下記のような特徴的があり、PMには徹底したスコープ管理とリソース最適化が求められた。
1)複雑なデータ処理
 10以上の既存システムからのデータ収集と、高精度な名寄せが必要だった。
2)多数のステークホルダー
 主要5部門以上が関与し、分析軸の優先度での意見対立があった。
3)経営資源の制約
 絶対的な納期(9ヶ月)、抑制的な初期予算、専門スキル要員の不足(実質2名)。

1.2.完了評価を行った工程

 論述対象は最上流工程の「要件定義工程」である。後続工程への品質影響が大きく、曖昧さ排除と品質確保が最重要と判断した。PMとして設定した完了条件・開始条件は次の通り。
1)要件定義工程の完了条件
・主要成果物の役員・部長承認が完了していること。組織の公式コミットメント獲得のため必須とした。
・全要件が経営戦略と整合し、SMARTの原則を満たす。品質確保のため、過去の失敗事例を参考に基準を厳格化した。
2)次工程(外部設計)開始条件
・外部設計コアチーム(5名)が確定し、PMが作成する要件理解度テストを、平均85点以上をクリアする。専門スキル要員が不足しているため、スキルの底上げを狙った。
・プロトタイピング用の検証環境が利用可能で、技術的Q&A体制が確立されていること。迅速な課題解決と早期の技術実現性確認ができる体制確立を意図してのものだった。

(777文字)

設問イ

2.工程完了評価によって把握した問題、次工程への影響と対策

2.1.工程完了評価時に把握した問題

 要件定義工程の完了判定会議(役員、部長出席)の結果は、「条件付き合格」だった。具体的には、下記の問題を次工程開始前に解決することが条件だった。
1)性能要件の具体性欠如
 マーケティング部門の期待に対し、「キャンペーン抽出処理5秒以内」等の具体的な目標値や測定条件が未定義だった。技術チームからは、低予算のインフラ構成案での性能劣化が懸念が示された。非機能要件の深掘り不足が背景にあり、放置するとシステムの信頼性にかかわると判断した。
2)特定業務部門からのスコープ外の追加要求
 工程終盤に店舗運営部から突然、「店舗別顧客リピート予測機能」の追加要求があり、2人月の工数増に相当した。初期ヒアリングの場に、キーマンがいなかったことが原因だった。予算・納期が極めて厳しい中での対応は、プロジェクト成否を左右する事態だった。

2.2.問題が次工程に与える影響

 これらの問題は、次工程以降への深刻な問題に発展すると分析した。
1)品質
 不明確な性能要件は、ユーザーから「使えない」と判断されるリスクがある。追加要求の安易な受諾は、テスト不足によるデグレード招き、システムの信頼性を失う。
2)スケジュール
 性能要件の再設計による手戻りで、外部設計が最低2週間の遅延。性能問題は1ヶ月以上遅延を招き、クリティカルパスへの影響は必至だった。追加要求の対応は1.5ヶ月の遅延が発生する。
3)コスト
 後工程での性能改善(ハードウェア増強など)は、数千万円単位の追加予算の投入が必要と試算。追加機能の開発も人件費と間接費の増加につながる。

 その他、チーム士気低下、ステークホルダー間の対立も懸念した。

2.3.検討した対策

 リソース(人・時間)の最大限の有効活用と、ステークホルダーへの積極的働きかけを重視し、危機的状況を打開する、以下の対策を実行した。
1)性能要件の早期具体化と合意形成【最優先】
 性能要件は主要関係者と緊急ワークショップ開催、目標レスポンスタイム等を定量化し、全員で署名合意した。クリティカル処理は、他部門と交渉してエース級エンジニアをアサインし、1週間の集中PoCで実現性を検証して設計に反映した。PoCチームには一時的な集中作業(一部時間外労働含む)を依頼したが、その必要性と期間を明確かつ丁寧に伝え、私自身も進捗管理や課題解決に積極的に関与することでチームの納得と協力を得た。
2)スコープ外の追加要求への体系的アプローチ
 この対策の狙いは、スコープの無秩序な拡大を防ぎ、予算・納期を遵守しつつ、ステークホルダーの満足度を可能な限り維持することにあった。具体的には、まず、少人数の「影響分析チーム」を組成し、「技術的な実現可能性」「必要な追加工数(人日)」「既存スケジュールへの影響度」「潜在的なリスク」を評価し、その結果を簡潔な報告書としてまとめた。次に、この影響報告書を基に、ステアリングコミッティ(情報システム担当役員、マーケティング担当役員、経営企画部長が参加)に対して、追加要求の採否について判断を仰いだ。その際、PMとしての客観的な立場から、「今回のスコープから除外し、将来の検討課題とする」「次期フェーズでの開発対象とする」「現行スコープ内の優先度の低い機能とトレードオフ」の3案を、それぞれのメリット・デメリット、及び経営的インパクトと共に提示し、データに基づいた戦略的な経営判断を促す方針とした。特に、安易なスコープ追加はプロジェクト失敗に繋がるため、そのリスクを強調した。

 対策の優先順位は、システムの根幹にかかわる問題である、性能要件の対策を最優先とした。

(1596文字)

設問ウ

3.問題の原因と再発防止策、および残された問題

3.1.問題の背景と原因

 要件定義工程での問題の背景には、当時の当社プロジェクト推進体制や組織慣行に起因する問題があった。
1)性能要件の具体性欠如の直接原因は、初期ヒアリングが機能面に偏り非機能面の期待が定性的な把握に留まっていたことにあった。この背景には、非機能要件の重要性に対する組織全体の認識不足と、それを具体化する標準開発プロセスの不備があった。結果、性能目標設定は各PMの裁量に委ねられがちだった。
2)スコープ外の追加要求があった直接原因は、スコープ定義時の議論不足にあった。その背景には、全社的視点から網羅的に要求を収集・評価する標準要求開発プロセスが組織的になかったことや、要求変更を客観的基準で管理する仕組みの形骸化にあった。

3.2.再発防止策と評価
 これらの組織的原因を踏まえ、下記の再発防止策を実行した。この活動はPMOを巻き込んだ、全社横断の活動とした。
1)要件定義プロセスの標準化・強化
 非機能要件定義強化として、初期の目標設定とステークホルダー合意を必須化し、テンプレートも整備。ステークホルダーエンゲージメント強化として、関連部署の役割・責任とコミュニケーション計画を標準化。要求開発手法導入支援として、ワークショップ等の研修を実施し活用を推進する。
2)技術的リスク管理プロセスの導入とプロジェクトガバナンス強化
 新規技術採用時等では、本格開発前にPoC実施を原則化する。また、設計・テストレビュー等で専門家が参画する独立レビュー委員会を設置し、段階的なレビュープロセスの強化を図る。影響分析・優先順位付け・承認プロセスを明確化した変更管理委員会を設置し、変更管理プロセスを強化する。
 これらの策を複数プロジェクトで適用した結果、複合的効果を得たと評価。具体的には、非機能要件の手戻り削減(ある中規模PJで約25%減)、承認プロセス遅延減少、PoCによる技術選定リスクの早期発見と回避などが実現。これらは品質向上とコスト抑制に繋がり、組織的プロセス改善の有効性を示した。

3.3.残された問題とその対応方針
 前述のプロセス改善後の問題として、新たなプロセスや仕組みに対する、組織文化レベルでの変革の浸透と定着の難しさが残った。導入した標準プロセス等が、変化の激しいビジネス環境下で形式主義に陥ったり、従来の慣習に引き戻されたりする抵抗感に直面し、実効性継続に困難があった。
 この問題への対応方針として、変革の意義とメリットを経営層から現場まで粘り強く訴求し続け、導入プロセス自体の継続的改善と柔軟性確保に努める。例えば、リスクベースアプローチ導入やハイブリッドモデル開発検討等、現場実情に合わせた進化を許容するなど、組織文化への定着に貢献する。

(1196文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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