プロジェクトマネージャ午後Ⅱ論文対策|実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例【平成24年度:問3】(別解)

こんな人におすすめ
  • 午後Ⅱ(小論文)でいつもつまづいている
  • 小論文のネタを探している
  • 合格者のアドバイスを受けたい

プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

問題の原本はIPAにてご確認ください。

問題文

問3 システム開発プロジェクトにおける利害の調整について

 プロジェクトマネージャ(PM)には、システム開発プロジェクトの遂行中に発生する様々な問題を解決し、プロジェクト目標を達成することが求められる。問題によってはプロジェクト関係者(以下、関係者という)の間で利害が対立し、その調整をしながら問題を解決しなければならない場合がある。
 利害の調整が必要になる問題として、例えば、次のようなものがある。
 ・利用部門間の利害の対立によって意思決定が遅れる
 ・PMと利用部門の利害の対立によって利用部門からの参加メンバが決まらない
 ・プロジェクト内のチーム間の利害の対立によって作業の分担が決まらない
 利害の対立がある場合、関係者が納得する解決策を見いだすのは容易ではない。しかし、PMは利害の対立の背景を把握した上で、関係者が何を望み、何を避けたいと思っているのかなどについて十分に理解し、関係者が納得するように利害を調整しながら解決策を見いださなければならない。その際、関係者の本音を引き出すために個別に相談したり、事前に複数の解決策を用意したりするなど、種々の工夫をすることも重要である。

 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおける、プロジェクトとしての特徴、利害の調整が必要になった問題とその際の関係者について、800字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた問題に関する関係者それぞれの利害は何か。また、どのように利害の調整をして問題を解決したかについて、工夫したことを含め、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた利害の調整に対する評価、利害の調整を行った際に認識した課題今後の改善点について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

1.プロジェクト概要と利害の調整について

1.1.プロジェクト概要

 私がPMとして担当したのは、全社的な顧客情報一元化と営業力強化を目的とした、新たなCRMの導入プロジェクトである。期間約2年、予算3億円規模であった。
 本プロジェクトの特徴は、利用部門が営業本部、マーケティング部など多岐にわたり、各部門の業務プロセスや管理情報の粒度が異なっていた点である。また、経営層からはDX推進の中核として短期成果を要求され、タイトな納期と限られた予算という制約があった。

1.2.利害の調整が必要になった問題

 要件定義フェーズにおいて、新CRMシステムの顧客データ入力項目と機能仕様に関して、主要利用部門である営業本部とマーケティング部の間で深刻な意見の対立が発生した。具体的には、営業本部は自由度の高い入力を一部維持したいと主張。一方、マーケティング部はデータ分析精度向上のため、全社統一の厳格なフォーマットでの入力と高度な分析機能を要求した。この対立により仕様が確定せず、スケジュール遅延が懸念された。
 背景には、両部門の業務特性とシステムへの期待値の根本的な相違があった。営業本部は日々の活動効率と迅速性を最優先し、入力負荷増大を懸念した。対してマーケティング部は、データに基づく精緻な分析と施策展開のため、高品質な統一データを不可欠と考えていた。

1.3.問題に関わった主な関係者

 主な関係者は、営業本部長、マーケティング部長、情報システム部長、及び開発ベンダーPMであった。
 営業本部長は、現場の業務効率低下と短期目標への悪影響を懸念した。マーケティング部長は、データドリブンな戦略実現のため、データの質と統一性を最重視した。情報システム部長はQCD遵守と全社最適を重視。ベンダーPMは、仕様確定の遅延による開発への影響を懸念していた。

(798文字)

設問イ

2.関係者それぞれの利害と利害調整プロセスについて

2.1.問題に関する関係者それぞれの利害

 前述の対立において、各関係者はそれぞれの立場から、以下のような利害を有していた。

1)営業本部長の利害
 最大の利害は、新システム導入による営業現場の生産性低下と短期目標未達の回避であった。具体的には、入力負荷増大によるコア業務時間圧迫や、自由記述の情報共有文化が損なわれることによる営業活動の質低下を強く懸念していた。
2)マーケティング部長の利害
 最大の利害は、新CRMをデータドリブン戦略推進の基盤とし、中長期的な競争優位性を築くことであった。そのため、全社統一された高品質な顧客データが不可欠であり、現状の属人的管理では機会損失が生じているとの強い問題意識があった。
3)情報システム部長の利害
 プロジェクトオーナーとして、計画通りのQCD遵守と、ITガバナンスの観点から全社最適化されたシステムの導入を最優先の利害としていた。部門対立による遅延や個別最適化による将来的な運用リスクを懸念していた。
4)開発ベンダーPMの利害
 契約に基づき、合意仕様での納期内納品が最大の利害であった。仕様確定遅延や頻繁な変更は、開発遅延、工数増、採算悪化に直結するため、明確で安定した仕様合意を強く求めていた。

2.2.利害の調整と問題解決のプロセス

 この複雑な利害対立を解消するため、下記のように段階的な調整と工夫を実施した。

1)初期状況の把握と課題認識の共有
 各部門へのヒアリング等から、対立が業務価値観の相違に根差すことを認識。このままではプロジェクト停滞と部門間不信を招くと判断し、関係者間で課題認識を共有した。最大の課題は、相互理解と共通目標の再設定であると考えた。
2)利害調整のために工夫した点
・個別ヒアリングによる本音と背景の深掘り
 各部門の責任者とキーパーソンに個別ヒアリングを重ね、本音や「譲れない点」「譲歩可能な点」を具体的に把握した。傾聴により信頼関係を構築し、公式の場では出にくい意見を引き出すことに努めた。この情報が調整の土台となった。
・プロトタイプを用いた「見える化」と段階的合意形成
 両部門の意見を一部反映した簡易プロトタイプを早期に作成し、ワークショップ形式でレビュー。具体的なシステムイメージ共有で建設的議論を促し、双方の懸念緩和と期待醸成を図った。これにより、心理的障壁を低減させた。
・共通ゴールとトレードオフ明示による合同調整会議
 情報システム部長同席のもと合同調整会議を開催。プロジェクトの全社的目的を再確認し、複数の解決策を提示。各策のメリット・デメリットに加え、QCDへの影響や運用負荷等のトレードオフを客観的データと共に具体的に示し、合理的な判断を促した。
3)問題解決に至った経緯と最終的な解決策
 個別ヒアリング、プロトタイプ共有、トレードオフ明示を経て、合同調整会議での議論は建設的なものへと変化した。
 最終的に、以下の内容で合意形成した。
・必須入力項目は、データ分析に必要なコア項目に絞り全社統一。
・営業部門の入力負荷軽減のため、予算内で入力支援機能を追加開発。
・営業部門の自由記述情報は、限定的なカスタム項目として一時的に許容し、半年後にレビューし段階的にCRMへ統合するロードマップを策定。
 この解決策は、双方の核心的利害を尊重しつつ、経営資源の制約内で実現可能な落としどころを見出すものであった。短期的な利便性と中長期的な戦略的価値のバランスを考慮し、プロジェクト全体の成功という共通目標を粘り強く説明した。

(1539文字)

設問ウ

3.利害の調整に対する評価と今後の改善点について

3.1.利害調整に対する評価

 CRMシステムの仕様に関する利害調整は、プロジェクト成否を左右する重要局面であり、以下のように評価する。

1)利害調整の成果
 今回の調整は有効に機能し、以下の成果をもたらした。
・QCD目標達成への貢献
 仕様確定遅延リスクを最小化し、予算・納期内で主要機能をリリースできた。
・関係者の納得度向上と円滑な利用促進
 段階的合意形成プロセスにより、各部門が解決策に理解を示し、リリース後の積極利用に繋がった。
・副次的効果
 部門間の相互理解深化とコミュニケーション改善に繋がった。
2)利害調整における反省点
 一方、反省点も明確になった。一つ目は、対立兆候への初期認識の甘さと対応開始の遅れである。より早期のステークホルダー分析と予防的対応が必要だった。二つ目は、プロトタイプの提示タイミングである。対立顕在化後ではなく、要件定義初期に提示できていれば、手戻りを一層削減できた可能性がある。三つ目は、PM自身のファシリテーションスキル不足である。特に感情的対立場面で、より効果的な議論コントロールが求められた。

3.2.利害調整を行った際に認識した課題

 今回のプロセスを通じ、PM個人、プロジェクト運営、組織全体に関わる課題を認識した。

1)PM自身の課題
 関係部門の業務や組織文化への深い理解、複雑な状況下での高度な交渉力、コンフリクトマネジメント能力の向上が不可欠であると痛感した。
2)プロジェクト運営上の課題
 ステークホルダーマネジメント計画の具体性向上と、対立時の意思決定プロセス・エスカレーションルールの事前明確化・共有が不十分であった。
3)組織的な課題
 部門最適思考が根強く、全社最適観点での調整に多大な労力を要した。経営層からの明確な方針指示や部門横断目標の重要性を感じた。

3.3.今後の改善点

 これらの評価と課題認識を踏まえ、以下の改善を図る。

1)PMとしてのスキル向上策
 担当プロジェクトのドメイン知識習得を強化し、ネゴシエーション、コンフリクトマネジメント、ファシリテーションに関する専門研修を受講し実践力を磨く。
2)プロジェクト運営プロセスの改善策
 計画段階で、詳細なステークホルダー分析に基づくコミュニケーション戦略を策定する。課題発生時の意思決定プロセスやルールを明確化し、全関係者と合意する。
3)組織への働きかけ(中長期的視点)
 今回の教訓や有効なアプローチ(プロトタイプ活用等)をナレッジとして組織内に共有し、PMO等を通じて展開する。また、経営層に対し、プロジェクト成功には全社最適視点と部門横断協力が不可欠であることを継続的に啓発し、組織文化変革を促す。

(1200文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。

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