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プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの小論文を作成してみました。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。
問題文および設問
問題の原本はIPAにてご確認ください。
問題文
問3 システム開発プロジェクトにおける利害の調整について
プロジェクトマネージャ(PM)には、システム開発プロジェクトの遂行中に発生する様々な問題を解決し、プロジェクト目標を達成することが求められる。問題によってはプロジェクト関係者(以下、関係者という)の間で利害が対立し、その調整をしながら問題を解決しなければならない場合がある。
利害の調整が必要になる問題として、例えば、次のようなものがある。
・利用部門間の利害の対立によって意思決定が遅れる
・PMと利用部門の利害の対立によって利用部門からの参加メンバが決まらない
・プロジェクト内のチーム間の利害の対立によって作業の分担が決まらない
利害の対立がある場合、関係者が納得する解決策を見いだすのは容易ではない。しかし、PMは利害の対立の背景を把握した上で、関係者が何を望み、何を避けたいと思っているのかなどについて十分に理解し、関係者が納得するように利害を調整しながら解決策を見いださなければならない。その際、関係者の本音を引き出すために個別に相談したり、事前に複数の解決策を用意したりするなど、種々の工夫をすることも重要である。
あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。
設問ア
あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおける、プロジェクトとしての特徴、利害の調整が必要になった問題とその際の関係者について、800字以内で述べよ。
設問イ
設問アで述べた問題に関する関係者それぞれの利害は何か。また、どのように利害の調整をして問題を解決したかについて、工夫したことを含め、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
設問ウ
設問イで述べた利害の調整に対する評価、利害の調整を行った際に認識した課題今後の改善点について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
解答例
設問ア
1.プロジェクト概要と利害の調整について
1.1.プロジェクト概要
私がPMとして担当したのは、顧客情報一元化と営業・マーケティング活動高度化を目的とした、新たなCRMの導入プロジェクトである。期間は約2年、総予算は3億円だった。
本プロジェクトの特徴は、主要利用部門の間で、業務プロセスや期待が異なっていた点である。また、経営層からはDX推進の中核として短期成果を要求され、納期・予算の強い制約があった。
1.2.利害の調整が必要になった問題
要件定義フェーズにおいて、新CRMの顧客データ入力項目と機能仕様に関して、営業本部とマーケティング部の間で、深刻な意見の対立が発生した。具体的には、営業本部は、効率的な情報入力と迅速なチーム内共有を重要視し、既存の表計算ソフト並みの自由度を新システムでも維持したいと主張した。
一方、マーケティング部は、精緻な顧客分析と施策展開のため、統一された厳格な入力フォーマットと高度な分析・レポーティング機能を要求した。彼らにとって、データの質と網羅性が最優先だった。
この要求の違いにより、システムの基本設計が確定できず、スケジュールが遅延し始めていた。
1.3.問題に関わった主な関係者
この利害調整における主要関係者は営業本部長、マーケティング部長、そしてオーナーである情報システム部長だった。
営業本部長は、短期売上目標に強い責任感を持っており、現場の混乱や入力負荷増による営業効率低下を最も懸念した。
マーケティング部長は、新システムをデータドリブン戦略の重要基盤と位置づけており、データの質と分析機能高度化を重要視した。
情報システム部長は、QCDの達成と全社IT戦略との整合性を担保する役割であり、部門対立による遅延等を危惧しつつ、全社最適の解決策を求めた。
(790文字)
設問イ
2.関係者それぞれの利害と利害調整プロセスについて
2.1.問題に関する関係者それぞれの利害
前述の対立において、各関係者は各々の立場から、以下のような利害を有していた。
1)営業本部長の利害
最大の利害は、新システム導入による営業現場の生産性低下と短期目標未達の回避であった。具体的には、入力負荷増大によるコア業務圧迫や、既存の柔軟な情報共有・活用(顧客ごとの機微情報や営業ノウハウ共有)が困難になることによる営業活動の質低下を強く懸念していた。
2)マーケティング部長の利害
最大の利害は、新CRMをデータドリブン戦略推進の基盤とし、中長期的な競争優位性を築くことであった。そのため、全社統一された高品質な顧客データが不可欠であり、現状の属人的管理では精緻な分析や効果的な施策展開が困難で、機会損失が生じているとの強い問題意識があった。
3)情報システム部長の利害
プロジェクトオーナーとして、計画通りのQCD遵守と、ITガバナンスの観点から全社最適化されたシステムの導入を最優先とした。部門対立による遅延や、個別最適化による将来的な運用・保守の非効率化や技術的負債を危惧していた。
2.2.利害の調整と問題解決プロセス
この三者三様の利害が絡む状況を打開するため、下記のような段階的な調整と工夫を実施した。
1)初期状況の正確な把握と課題の本質特定
まず各部長へ個別ヒアリングを重ね、表面的な要求だけでなく、その背景にある価値観(効率性・柔軟性 vs 品質・標準化)の相違が対立の本質であると特定した。
2)利害調整のために特に工夫した点
・「共感」と「翻訳」による個別調整と信頼関係の構築
各部長の懸念や期待に共感を示しつつ、一方の要求の論理やメリットを他方が理解できる言葉で説明する「翻訳者」の役割を担った。例えば、データ標準化が長期的には営業効率化にも繋がる可能性を示すなど、共通利益を提示し、PMへの信頼感を醸成して本音の意見交換を促した。
・プロトタイプを用いた「体験」による具体的な議論の促進
両部門の意見を一部反映した簡易プロトタイプを早期に開発し、ワークショップで体験してもらった。営業部門は入力支援による負荷軽減の可能性を、マーケティング部門は統一データによる分析イメージを具体的に掴むことができ、システムへの心理的ハードルを下げ、建設的な議論を促進した。
・情報システム部長を「仲介役・意思決定支援者」として巻き込んだ合同調整会議
情報システム部長同席のもと合同調整会議を開催。全社目的を再確認後、私は複数の解決策(例:マーケティング要求主体案、営業要求主体案、折衷案)を提示。各策が双方の「譲れない点」をどう満たし、QCDにどう影響するかを客観的データで見える化した。情報システム部長には全社最適の視点からの意見や判断を促し、建設的議論をファシリテートした。
3)問題解決に至った最終的な合意内容
段階的なプロセスと工夫の結果、各部長は互いの立場を理解し尊重する姿勢へと変化した。
最終的に、情報システム部長の承認のもと、以下の内容で合意した。
・必須入力項目は、マーケティング部門が必要とするコア項目に絞り全社統一。
・営業部門の入力負荷軽減のため、予算内で操作性を向上させる入力支援機能を追加開発。
・営業部門の自由記述情報は、限定的なカスタム項目として過渡的に許容し、半年後にレビューし段階的にCRMへ統合するロードマップを策定・共有。
この解決策は、双方の核心的利害を尊重しつつ、限られた経営資源内で実現可能な落としどころであった。
(1534文字)
設問ウ
3.利害の調整に対する評価と今後の改善点について
3.1.利害調整に対する評価
CRMシステムの仕様に関する利害調整は、プロジェクト成否を左右する重要局面であり、以下のように評価する。
1)利害調整の成果
今回の調整は有効に機能し、以下の成果をもたらした。
・QCD目標達成への貢献
仕様確定遅延リスクを最小化し、予算・納期内で主要機能をリリースできた。
・関係者の納得度向上と円滑な利用促進
段階的合意形成プロセスにより各部門が理解を示し、リリース後の積極利用に繋がった。
・副次的効果
部門間の相互理解力とコミュニケーションが改善した。
2)利害調整における反省点
一方、反省点も明確になった。一つ目は、対立の根深さや影響の予見が甘く、予防的対応が遅れた点である。より早期のステークホルダー分析と予防的対応が必要だった。二つ目は、プロトタイプの提示タイミングである。要件定義初期に簡易プロトタイプを提示できていれば、手戻りを一層削減できた可能性がある。三つ目は、PM自身のファシリテーションスキル不足である。特に感情的対立場面で、より高度なファシリテーション技術が求められた。
3.2.利害調整の際に認識した課題
今回を通じて、PM個人、プロジェクト運営、組織全体に関わる課題を認識した。
1)PM自身
関係部門の業務への深い理解、複雑な状況下での交渉力、コンフリクトマネジメント力の向上が不可欠と痛感した。特に異なるミッションを持つ部門間の調整は、双方の橋渡しする能力が求められる。
2)プロジェクト運営
ステークホルダーマネジメント計画において、対立構造への対応の具体性が不足していた。また、対立時の意思決定プロセスやエスカレーションルールの事前定義が不十分だった。
3)組織全体
部門最適の思考が、全社戦略や他部門への配慮を欠く主張に繋がる場面があり、経営層からの明確な方針指示や部門横断目標の重要性を感じた。
3.3.今後の改善点
これらの評価と課題認識を踏まえ、以下の改善を図る。
1)PMとしてのスキル向上策
業務ヒアリングの質向上や関連動向学習で、担当プロジェクトの専門知識を強化する。コンフリクトマネジメント等の専門研修を受講し実践力を磨く。
2)プロジェクト運営プロセスの改善策
計画段階で詳細なステークホルダー分析に基づき、リスク評価とコミュニケーション戦略を策定する。課題発生時の意思決定プロセスやルールを明確化し、全関係者と合意する。
3)組織への働きかけ(中長期的視点)
今回の教訓や有効なアプローチ(プロトタイプ活用等)をナレッジとして、PMO等を通じて展開する。また経営層等に対し、全社最適視点と部門横断協力が文化して醸成するよう、継続的に啓発する。
(1200文字)
まとめ
自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。
参考図書
自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。
上記はプロジェクトマネージャ試験の対策本ですが、ITサービスマネージャ試験でも通用する内容です。
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