プロジェクトマネージャ午後Ⅱ論文対策|実務経験を持つ一発合格者が書いた解答例【平成23年度:問3】

こんな人におすすめ
  • 午後Ⅱ(小論文)でいつもつまづいている
  • 小論文のネタを探している
  • 合格者のアドバイスを受けたい

プロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱの対策として、自分が実際に練習用に作成した小論文を紹介します。小論文のネタ探しや午後Ⅱ対策の参考にしてもらえるとうれしいです。

問題文および設問

具体的な問題はIPAにてご確認ください。

問題文

問3 システム開発プロジェクトにおける組織要員管理について

 プロジェクトマネージャ(PM)には、プロジェクト目標の達成に向けてプロジェクトを円滑に運営できるチームを編成し、チームを構成する要員が個々の能力を十分に発揮できるように要員を管理することが求められる。
 要員のもつ能力には、専門知識や開発スキルなどの技術的側面や、精神力や人間関係への対応力などの人間的側面がある。プロジェクトの遂行中は、ともすれば技術的側面を重視しがちである。しかし、人間的側面に起因した問題(以下、人間的側面の問題という)を軽視すると、次のようなプロジェクト目標の達成を阻害するリスクを誘発することがある。
・意欲の低下による成果物の品質の低下
・健康を損なうことによる進捗の遅延
・要員間の対立がもたらす作業効率の低下によるコストの増加
 PMはプロジェクトの遂行中に人間的側面の問題の発生を察知した場合、その問題によって誘発される、プロジェクト目標の達成を阻害するリスクを想定し、人間的側面の問題に対して原因を取り除いたり、影響を軽減したりするなどして、適切な対策をとる必要がある。

 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトの目標、及びプロジェクトのチーム編成とその特徴について、800字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたプロジェクトの遂行中に察知した人間的側面の問題と、その問題によって誘発されると想定したプロジェクト目標の達成を阻害するリスク、及び人間的側面の問題への対策について、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた対策の評価、認識した課題、今後の改善点について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

解答例

設問ア

1.プロジェクトの概要とチーム編成の特徴

1.1.プロジェクトの概要

 私が担当したプロジェクトは、大手小売業A社の基幹システム(販売管理)刷新プロジェクトである。既存システムの老朽化とDX戦略推進のため、新システムへ移行するものであった。私はプロジェクトマネージャとして全工程を統括した。
 プロジェクトの目標は、品質目標として、本稼働後3ヶ月クリティカル障害ゼロ、データ移行エラー率0.01%以下とした。これは業務継続性担保に不可欠であった。コスト目標は総予算1億円以内の厳守。納期目標は1年後の4月1日カットオーバーであり、新年度業務開始と旧システム保守期限から最重要視した。

1.2.プロジェクトのチーム編成とその特徴

 プロジェクトチームはピーク時30名。社内SE10名(PM含む)、協力会社A(開発担当)15名、協力会社B(インフラ担当)5名で構成した。社内SEは要件定義やPMO業務、協力会社Aは設計・開発・テスト、協力会社Bはインフラ全般を担当した。
 チームの特徴として、業務知識豊富な社内ベテラン層と、新技術に明るい協力会社若手・中堅層というスキル・経験の多様性があった。これを活かすため意思統一が重要と考えた。また、開発の大部分を協力会社に依存し、一部はリモートワークであった。このため、進捗・品質の正確な把握、効果的なコミュニケーション、一体感醸成が課題と認識した。さらに、厳格な納期・予算はチームへの精神的プレッシャーが大きく、人間的側面の問題発生を重大リスクと捉え、予防と早期対応が肝要と判断した。特にキーパーソンへの負荷集中やコミュニケーション不足に注意を払う必要性を認識した。

(720文字)

設問イ

2.人間的側面の問題と対策

2.1.遂行中に察知した人間的側面の問題

 プロジェクト中盤、結合テスト準備段階で協力会社A社の若手開発リーダーC氏(30代前半、エース格、最重要機能担当)に人間的側面の問題を察知した。具体的には、会議での発言減と覇気喪失、稀な遅刻、報告進捗と実態の乖離(ミス増)、他メンバーへの不機嫌な態度が確認された。私はC氏が深刻な問題を抱えると強く認識した。
 C氏のモチベーション低下と疲弊の背景と原因を分析し、以下と結論付けた。
1)C氏への過度な業務負荷
 技術的難易度の高い複数重要機能を一人で担当、代替困難な状況。
2)C氏の性格
 責任感が強く弱音を吐けない性格。未経験技術への挑戦に伴う不安やプレッシャー。
3)私(PM)とのコミュニケーション不足
 心理的負担への配慮や精神的サポートの欠如。
 これら複合的要因、特にタイトな納期による高負荷状態が、C氏の問題を顕在化させたと分析した。

2.2.想定したプロジェクト目標の達成を阻害するリスク

 C氏の問題を放置した場合のリスク分析を行い、以下を特定した。

1)品質低下
 C氏担当機能のバグ増、テスト漏れ。チーム全体の品質保証レベル低下。目標「クリティカル障害ゼロ」達成困難。
2)進捗遅延
 C氏の作業効率低下、手戻り増によるタスク遅延。最悪、C氏長期離脱でプロジェクト致命的遅延。目標「納期遵守」達成不能。
3)コスト増加
 品質低下や進捗遅延リカバリの追加工数・費用発生。目標「予算内完了」達成困難。
4)チームワーク阻害
 C氏の不調によるチーム雰囲気悪化、他メンバーへの業務しわ寄せで不満増大、チーム生産性低下。

 特に「進捗遅延リスク」を最重要と判断した。納期遵守は経営層からの絶対命令であり、プロジェクト成否に直結するからである。

2.3.人間的側面の問題への対策

 C氏の問題の深刻さを認識し、経営資源の制約(追加予算困難、納期厳守)を前提に、実現可能性と即効性を重視し対策を検討・実行した。

1)対策の検討と選択
 対策案として、以下の4案を検討した。
A案)C氏の業務負荷軽減(タスク移管)
B案)C氏との1on1ミーティング(精神的サポート)
C案)協力会社A社上長への連携・増員要請、
D案)チームビルディング活動

 私は、C氏本人の負担軽減と精神的ケアが急務と考え、A案とB案を最優先で実施すると決定した。次に根本的リソース問題対応として、C案も速やかに着手した。D案は状況を見て実施する方針とした。この決定はC氏との会話、上司承認、協力会社A社責任者との連携合意を経て行った。経営資源の制約から現有リソースでの最適化と早期対応を意図したものだった。

2)具体的な対策内容と実行プロセス
 まずB案として、C氏と週1回30分の1on1ミーティングを開始。業務課題だけでなくプレッシャーやキャリアも傾聴し信頼関係構築に努めた。「あなたの健康が最重要」と伝え孤独感を和らげることに配慮した。
 並行してA案として、C氏のタスクを再評価しコア業務以外を他メンバー(社内若手SE含む)へ再配分。私も一部レビューを巻き取り、C氏には専門性の高い業務に集中できる環境を整備した。再配分時は他メンバーへ丁寧に説明した。
 さらにC案として、協力会社A社の上長と週1回状況共有会議を設定し、C氏の状況を共有した。これにより、協力会社側からも技術的助言や一時的応援派遣等のサポートを得た。

 これらの対策はC氏の精神的安定と業務負荷適正化によるモチベーション回復、品質・進捗の安定化を期待した。また組織として個人に過度な負担を与えない姿勢を示し、チーム全体の安心感醸成も狙った。

(1598文字)

設問ウ

3.対策の評価、課題、及び今後の改善点

3.1.対策の評価と考察

 前述の対策の結果、C氏の表情が明るくなり発言が増え、チームの雰囲気も改善した。レビュー指摘件数は月平均15件から5件に減少し、品質が向上、C氏起因の遅延も解消し、プロジェクトは納期・予算・品質目標を達成できた。
これらの成果を踏まえ、対策は有効に機能したと評価する。QCD目標への貢献、特に納期遵守は、C氏の早期立て直しが遅延を未然に防いだ結果と判断する。C氏のモチベーション回復が品質向上に直結したことは、人的資源管理の成功が成果に繋がる重要性を示す証拠と考える。また、C氏の自発的発言の増加等、定性的変化がチームの心理的安全性を高め、生産性向上に寄与した点は特に評価する。副作用として懸念された、他メンバーへの一時的な負荷増加については、A社との協力関係の強化や若手社員の成長機会と捉えることで、新たな問題発生を抑制できたと考える。C氏の変調を早期に察知し、本質的原因への迅速な対策が成功の最大の要因であり、人間的側面への配慮が成功の鍵だと再認識した。

3.2.認識した課題と今後の改善点

 一方で、下記の課題も認識した。

1)属人化リスク対応の遅れ
 キーパーソン依存を認識しつつ、具体的対策が後手に回った。これは納期優先で中長期的リスク対応が遅れたためであり、PMの要員スキル把握やリスク分散の働きかけ不足が要因だった。
2)予防的措置の更なる充実
 組織的予防策の重要性を再認識した。計画時に人間的側面リスク評価が低く具体的予防策に踏み込めていなかった。
3)協力会社メンバーへのケア
 契約関係等により踏み込んだケアが困難だった。これは組織文化の違いやPMの権限の曖昧さ、PM自身の心理的な壁が原因と分析する。

 上記課題に対して、個人と組織の観点で下記の改善を図ることで、メンバーが能力を発揮できる環境を整備し、組織のプロジェクト成功率向上に貢献する。

・個人の観点
 メンバーの変化に早期に気づき、本音を引き出し、自律的解決を支援するための傾聴力・コーチングスキルを向上する。人間的側面リスクマネジメント手法を深化させ、計画時から予防策を組み込む。多様なメンバーへのエンゲージメント向上策、特に協力会社メンバーとの信頼関係構築とモチベーション維持の具体的アプローチを習得する。

・組織の観点
 メンタルヘルスケア体制強化(定期ストレスチェック、外部相談窓口設置、管理職研修等)を提言する。協力会社との契約条件(キーパーソンの長期離脱時のルール等)の見直しを提案する。PMOによるナレッジ共有促進として、対応事例やノウハウを組織内で共有しベストプラクティスとして蓄積・横展開する仕組みを構築する。

(1173文字)

まとめ

自分自身の論文のネタにするためには、サンプル論文はいくらあってもよいと思います。
このブログに記載したサンプル論文が役に立つとうれしいです。

参考図書

自分が受験したときに使用した参考図書は、下記の旧版です。
「最速の論述対策」で、回答文章のモジュール化と章立ての基本テクニックを学び、「合格論文の書き方」で自分の経験でモジュール化できなかった部分の補強を行い、過去問で実際に手書きの練習をしました。

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